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『ファイアーエムブレム 風花雪月』について語りたい【10】主人公の出生

「ファイアーエムブレム」シリーズ中の名作『ファイアーエムブレム 風花雪月』の魅力を語り続けていますが、今回は主人公が炎の紋章を持つに至った過程とその結果もたらされたのは何か、主人公(ベレト・べレス)の出生について想像逞しく語っていきたいと思います。

かなりネタバレが含まれるので、未プレイの方やネタバレはダメという方はご注意ください。

 

無表情な主人公

この『ファイアーエムブレム 風花雪月』の主人公(デフォルトの名前は男性主人公はベレト・女性主人公はベレス)は、父親のジェラルトとともに傭兵を生業とし、無表情で剣を振るう姿から「灰色の悪魔」と呼ばれて恐れられていました。

この主人公、フォドラの地にいながらセイロス教についての知識が無く、当然信仰もしていません。そんな主人公に周囲の人間は戸惑いを見せるほどですが、この傭兵として腕は立つけれど世間に疎い、というのがポイントなんですよね。何も知らないままにいきなり士官学校の教師を任された主人公。このゲームがどんな世界なのか何もわからない状態でゲームをスタートしたプレイヤーと主人公はリンクした状態だと言えます。

また、このゲームは会話ではモブキャラさんまでフルボイスというのに、主人公は感情の起伏に乏しく、レベルアップした時くらいしか声を聞くことがありません。主人公はほぼ同じ表情のままで過ごし、生徒たちとの会話では字幕で選択肢が画面に現れるものの、実際に主人公がどのように喋っているのかは、声が出ないのでまったく分かりません。

この、無口で無表情というところが良いんですよ。ゲームでは主人公にどんな行動をさせて誰とどんな会話をさせるか、プレイヤー自身がコントロールしています。主人公の言動の全てにプレイヤーの思考や感情が投影されているわけです。そのためこの無口で無表情な主人公はプレイヤーの感じたものと違う反応を示すことがなく、むしろ逆に感情移入がしやすく感じます。これはプレイヤーが自分で主人公を操作して行動させるというゲーム独特の感覚だなと思います。崩すことのできない完全なストーリーを、登場人物たちの言動を通して受け取っていく小説やマンガ、映像作品とは違う部分ですね。

 

主人公の秘密・レアの過去

主人公の母親はシトリーという大修道院で生まれ育った修道女でした。その名前は本編では伏せられていますが、「煤闇の章」で明らかにされており、彼女の姿も見ることができます。主人公の容姿は母親似のようですね。

シトリーはジェラルトと恋に落ち、子どもを授かりました。その子が主人公です。感情の起伏に乏しかった彼女が、ジェラルトの前でだけは明るく微笑んでいたとのこと。お腹に赤ちゃんがいる間、シトリーは幸せそうにしていたとジェラルトも語っています。しかし体の弱かった彼女は、主人公を産んで亡くなってしまいます。

はい、ここで突然ですが、ゲームのオープニングの映像を思い出してください。若かりし頃(⁇)のレアが敵を見事討ち果たし、敵から取り戻した剣を抱きしめるというもの。初めてのプレイ時は「なんじゃこりゃ」と思って見ていたんですが、実はこのムービー、主人公の出自にかなり深い関わりがあるものなんです。

ということで、以下盛大にネタバレしつつ語ります。

 

オープニングムービーの意味

今はレアと名乗りセイロス教の大司教を務めていますが、彼女こそが女神ソティスによって生み出された「女神の眷属」である聖者セイロス。あのオープニングムービーはレアのセイロスとしての姿です。

ネメシスを睨むセイロス

憎きネメシスに向けるこの険しい表情ですよ

彼女の戦っている相手は「解放王」ネメシスであり、取り戻した剣は主人公が振るう「天帝の剣」なのです。ネメシスを倒したセイロスがすぐさま天帝の剣に駆け寄り、「お母さま」と言いながら愛おしそうに抱きしめている、というわけです。

なぜ主人公の振るう「天帝の剣」がセイロスの「お母さま」なのか? それはフォドラの三国が建国される遥か昔にまで遡ります。

セイロスは他の眷属たちとともに、女神ソティスが眠る聖墓を守りながらザナドの地で暮らしていました。しかし「闇に蠢く者」と手を組んだネメシスによって、聖墓が暴かれてしまいます。ネメシスは聖墓から盗み出した女神ソティスの亡骸の血から「炎の紋章」を、骨から「天帝の剣」を、心臓から「紋章石」を作り出し、ザナドに住む女神の眷属たちを虐殺。そして殺した眷属たちの亡骸からも、女神と同様に紋章・武器・紋章石を作り出して仲間に与え、更なる虐殺を行ったのです。

ザナドでの虐殺を生き延びたセイロスは、女神ソティスを主神とするセイロス聖教会を創設し、女神を崇める人々に力を与えてアドラステア帝国を建国。生き延びた他の眷属と共にネメシスを倒し、天帝の剣などの武器や紋章石を奪還します。天帝の剣を取り戻したということは、女神ソティスの亡骸を取り戻したと同じこと。これでセイロスが口にした「お母さま」の意味が分かりますね。

女神ソティスをはじめ同胞の亡骸から作り出した武器を使って悪党どもが虐殺を行ったという事実は、女神の尊厳を大きく失わせてしまいます。どうあっても、女神ソティスと同胞たちの遺体から作られた武器や紋章石を穢れたものとはしたくなかったセイロスは「邪神を討つために女神ソティスが解放王ネメシスとその仲間であるフォドラ十傑と呼ばれる者たちに英雄の遺産という名の武器を授けた」と大きく事実を捻じ曲げて伝え、女神やその眷属たちが悪党どもに蹂躙されたことを隠蔽したのです。元は悪党によって作り出された物であった紋章や英雄の遺産が、今は高貴な身分の証として重んじられているというのは、とても皮肉ですよね。

憎きネメシスを倒したセイロス。天帝の剣、英雄の遺産、紋章石を取り返してセイロス聖教会の大司教のレアとして穏やかに生きるようになりますが、母である女神ソティスへの思慕を抑えることはできませんでした。そこで彼女はネメシスから取り戻した紋章石を埋め込んだ人間を作り出し、女神ソティスを蘇らせようと思い立ちます。

レア様ってばどれだけ強烈なマザコンなのかと自分には理解できない部分ですし、セテスたちも知っていれば絶対に止めただろうと思います。が、想いに取り憑かれたレアは、女神ソティスを甦らせようと何度も人体錬成を繰り返し試みます。そして12番目に作り上げたのが、主人公の母であるシトリーだったのです。シトリーという名前は序列12番目の悪魔の名前だったりします。意味深です。

 ジェラルトとの子どもを授かったシトリーですが、その体は出産に耐えられず母子共に危険な状態に陥ってしまいます。シトリーは死の間際に、自らの体に埋められている紋章石を移して子供の命を救って欲しいとレアに懇願。レアはその願いを聞き入れました。そうしてシトリーは亡くなり、主人公には心臓の代わりに女神ソティスの紋章石を埋め込まれました。主人公がその身に炎の紋章を宿し、紋章石が抜かれた状態である天帝の剣を操ることができるのは、このためなのです。

ちなみに、ベレト(Beleth)という名前も13番目の序列の悪魔の名前。「灰色の悪魔」と呼ばれもし、ルートによっては教団を潰す側に回りますので相応しい名前かなと思います。

輝く天帝の剣

紋章石は無くとも主人公の炎の紋章と呼応して輝く天帝の剣

 

敬愛から恐怖へ

かつて「壊刃」と呼ばれ、セイロス騎士団にあって最強と謳われるほどの騎士だったジェラルト。元は王国の兵士だった彼は、レアに命を助けられたことからセイロス騎士団に属することになりました。ジェラルトは自分を救ってくれたレアに対して恩義を感じ、深く敬愛していたはずです。

しかし彼は、妻シトリーが出産で命を落とし、残された我が子の泣きも笑いもせず心音もしないという異常な様子に、レアへの疑いと恐怖を抱き、騎士団を離れて1人で主人公を育てていこうと決意します。敬愛から疑いと恐怖へ。ジェラルトの中でのレアに対する感情の大きな変化は、彼の体に起きていた変化も関係しているのではないでしょうか。

重傷を負ったジェラルトの命を救ったレア。その時に彼女が施した治療は、自らの血を使ったものでした。治療としてレアの血を与えられた結果、ジェラルトはセイロスの大紋章と不老の体を得たのです。一介の兵士に過ぎなかったジェラルトが、セイロス騎士団の団長にまで登りつめ、歴代最強とまで言われるほどの強さを誇る伝説的存在になり得たことに、レアの血による影響が少なからずあったと思います。

ジェラルトは豪快で大雑把なイメージのある人物ですが、主人公に託した日記の記述などを読むと、とても理知的で慎重な面も持ち合わせていたと感じさせます。そんな彼は、レアによって人を超えた力を授けられたこと、そしてそのことを迂闊には口にすべきものではないということを、その身をもって強く感じていたと思うんです。だからこそ、生まれたばかりの我が子に対してレアが秘密裏に「何かをした」ということを、彼は鋭く察したのです。

我が子が成長し周囲の人々が老いていく中で、ジェラルトは自分1人だけが変わらない姿でいることを、それまで以上に恐ろしく感じていたのではないかと思います。その感情は、レアへの疑いと恐怖をさらに深めたに違いありません。「我が子はすでに普通の人間ではないかもしれない」という恐怖と、「普通の人間として生きてほしい」という願いが常に同時に彼の心に在り続けていたことでしょう。

そのため、ジェラルトはレアの手から逃れるように、徹底して主人公をセイロス教から遠ざけて育て続けました。セイロス教が生活に根付いているフォドラの地でセイロス教を避けるということは、かなりの困難を伴っていたのではないでしょうか。

そうして主人公は傭兵としてのみ生き、ジェラルト以外の人間との積極的な交流はありませんでした。それでも成人した主人公は士官学校の教師として生徒たちに慕われ信頼され、彼らを立派に教え導いていきます。そんな主人公の姿は、ジェラルトがどれほど主人公を大事に思い愛情深く育ててきたのか、という証なのだと感じます。

 

女神ソティスの容れ物

親に愛され、生徒たちに愛され、主人公はたくさんの人たちの愛情を受けますが、その中でなんだか不穏なものを感じさせるのが、レアからの愛情です。

シトリーから懇願されたレアが紋章石をその体に埋め込んだおかげで主人公は命を落とすことなく済んだわけなのですが、それはレアしか知らない話であって、真実であるということを証明できる人はいないんですよ。それって、怖いですよね…。

そもそも、シトリーは女神ソティスの意識を蘇らせる「器」としてレアが作りだした人間です。シトリーが完全に女神ソティスの器として成功していたならば、ジェラルトとの結婚なんて、レアが許すわけがありません。

シトリーは女神ソティスの意識を宿せてはおらず、レアはシトリーを失敗作だったと早々に見切っていたと思うんです。次の13番目の「器」には違う手法を試みてみようということで、レアは、シトリーに子どもを産ませることを思いついたのではないでしょうか。自分の血から作り出したシトリーと自分の血を分け与えたジェラルトとの間に授かった子どもは、元よりレアの血がその体に流れていることになります。つまり女神の眷属の血を持つ人間が産まれるわけです。

シトリーの産んだ子の体に紋章石を埋め込めば、きっと……。

セイロス聖教会を立ち上げ、アドラステア帝国を建国させ、ネメシスを討ち果たしたレア。その行動力と執念ってすごいじゃないですか。しかも主人公が男だろうと女だろうとお構いなしで女神ソティスの紋章石を埋め込んでしまうなど、偏執的で狂気じみたものを感じさせます。レアは「シトリーに頼まれたから生まれた子に紋章石を埋めた」と言っていますが、本当は初めから子どもを女神ソティスの器にするべくシトリーとジェラルトを出会わせ子どもを産ませて、用済みとなったシトリーを……。

天帝の剣を使う主人公に満足そうなレア

やっぱり怖いんですよ、レア様

自分で書いておいて気持ち悪くなってきましたが、レアはそれくらいのこと考えて行動に移していても、おかしくない気がしちゃうんですよね。レアの主人公に対するにこやかな態度が怖いものにしか感じられなくなってしまいます。そもそもレアは人間ではなく女神の眷属ですからね、人間が真には理解できない存在なのかもしれません。

 

主人公の中の女神

突然主人公の夢に現れたソティス。少女の姿でありながら、自分のことを「わし」、主人公を「おぬし」と呼ぶなど古めかしい喋り方をしていますし、身に纏う着衣や装飾品も古代を感じさせます。その姿は主人公にしか見えず、その声は主人公にしか聞こえません。なぜなら彼女は、主人公の体に埋め込まれた紋章石に宿る女神ソティスの意識。レアの思惑通り、女神ソティスの意識は主人公の中に宿っているのですから。

物語の序盤では、主人公の体に女神ソティスの紋章石が埋め込まれている事実も知らされておらず、ソティスも自身に関する記憶の多くを失っているため、その正体は謎のままに進行していきます。セイロス教がみだりに女神の名を口にしてはならないとしているという設定で、女神の名がソティスであると早々に発覚してしまうのを自然に避けていますね。

自分がセイロス教の主神とされている女神ソティスであり、その意識だけが主人公の中に宿っていることを知ってソティスは取り乱します。しかし、その体に紋章石を埋め込まれ自分の意識を宿しているがために「闇に蠢く者」に襲われ闇の中に飲み込まれてしまった主人公を救い出すため、ソティスは主人公と融合する決意をします。それは自身の意識が消えてしまうことを意味していました。それでもソティスは逡巡することなく主人公の命を救うことを選ぶのです。

女神ソティスの力を得て闇から脱した主人公。感情豊かで可愛らしさも感じさせた女神ソティスの意識は消え、もうその声を聞くことはできなくなってしまいました。しかし、その女神の力と共に、主人公は生徒たちとフォドラの地を新しい姿に変えていきます。それこそが、主人公に託した女神ソティスの意志だったと言っても良いのではないでしょうか。主人公は女神ソティスの力を継いだ者としての務めを果たしたのです。

 

次回は、そういえば取り上げていないなということで、なぜフォドラ各国の貴族たちは士官学校に集うのか? ということで、3学級が士官学校で共に時を過ごす「白雲の章」について語りたいと思います。

isanamaru.hatenablog.com