皆さんは『SK∞ エスケーエイト』という作品をご存知でしょうか。沖縄を舞台に、廃鉱山で行われるスケートボードのレースの熱い戦いと暦とランガの2人の友情を描いた内海紘子監督のオリジナルアニメ作品。舞台化とアニメ新作プロジェクトが発表され、放送終了後もまだまだ盛り上がりを見せています。
今回は暦とランガの出会いから愛抱夢の登場までを描く1〜3話について語りたいと思います。
第1話 熱い夜に雪が降る
高校生の暦が「S」と呼ばれるスケートボードのレースに参加するため、夜の街を滑る場面から物語はスタートします。
俺がガキだった頃、まだヒーローのテレビとか見てたからさ。そのヒーローが言ったんだ。お前の幸せは何だって。
(中略)
俺は知ってる 俺の幸せは……
シャドウとのビーフのため「S」のコースとなっている廃鉱山クレイジーロックに向かう暦。「S」は先にゴールすることが全て。シャドウの爆竹を使った妨害工作の前に敗れ、暦は腕を負傷しボードを壊されてしまいます。
それでも暦の頭の中はスケートボードのことで一杯。彼の腕のケガを見てまたケンカかとからかってくるクラスメイトたち。新しいボードのデザインなどを描いたノートを覗き込まれた暦は興味があるかとうれしそうに声をかけますが、誰も興味を示しません。そんなクラスメイトを尻目にシャドウ打倒のための手段を考え、ノートへの落書きを続ける暦。
俺に必要なものは
彼がノートにそう書いた時、カナダから来た転校生のランガが教室に入ってくるのです。
ここまでの導入、上手いですよね〜。暦が本当にスケートボードが大好きで明るくポジティブな性格であることがよく伝わってきます。表情豊かな彼を見て、マイナスの感情を持つ人はいないんじゃないでしょうか。一緒にスケートボードをやってくれる「誰か」を求めている、そんな暦の前にランガが登場するんですよ。運命なんだなぁと強く感じさせられますね。
しかし2人の出会いは劇的だったわけではありません。暦はランガの印象をボーッとした奴と言っていますし、ランガに至っては転校したばかりでまだ暦の顔も覚えていない状態。しかし足元に滑ってきたスケートボードをランガが手に取ったことをきっかけに、2人の距離は一気に縮まるんです。
スケートボードって、ちょっと不良っぽくてイメージ悪いところがありますよね。そのせいで、暦は練習を繰り返している証であるケガを友人たちにケンカだと決めつけられ、誘っても「危ないのは勘弁」と敬遠されてきたのです。純粋な興味を示してくれたことがうれしくて暦は、ランガに半ば強引にスケートボードを教え始めます。
当たり前ですがスケートボードには車輪が付いており、すぐに動いてしまいます。ボードの上に乗ることもできずに転んでしまい、「人が立てるようにできていない」と文句を言うランガ。しかし暦がジャンプを決めると、それまで無表情だった彼が目を見開いて驚きの表情を見せるんです。
どうやったのかとたずねるランガに気を良くした暦は、バイト先の店で初心者用のスケートボードを選んでやると言いますしかしそれよりもバイト先を探したいランガ。そこでランガは暦のバイト先の店長の代わりに、「S」に参加するスケーターにボードを届けることになります。
「S」ではどれだけすごいレースが行われているのか、ランガにとにかく熱く語って聞かせる暦。自分の好きなものを共有できるという期待で一杯の暦の口調が、とにかく楽しげなんです。本当に好きなことについて語っている人って引き込まれますよね。
自分の作ったサイコーのボードでサイコーの滑りができたら、それってサイコーじゃねえか
興味なさそうな表情で話を聞いてランガでしたが、それでも暦の「サイコー」という言葉が彼の耳に残っていました。
「S」当日、暦はランガのバイクに乗って客にボードを届けますが、持ってきたのは客のものではなく自分の修理前のボード。これではシャドーとのビーフができないと怒った客は、代わりにビーフに出ろと暦に迫ります。シャドウの挑発もありレースに出ようとする暦ですが、気づけばなぜかランガが暦のボードにガムテープで足を固定しています。
滑ろうと思って
ミスのせいとはいえ、客に責められている暦をランガは見ていられなくなったのでしょう。日はまだ浅くても暦は沖縄でできた友人。ケガ人の暦に無理をさせるわけにはいきませんし、どんな形であれ「S」に代わりに出れば客は満足するはず。そして何より、ランガはスケートボードに手を伸ばさずにはいられない「何か」を感じ取っていたんだと思うんです。
絶対無理だと止める暦の言葉も聞かず、レースに出るランガ。手で漕がないと滑り出すことさえできなかったというのに、スピードが出てくるに従い、彼は初心者とは思えない滑りを見せるようになります。それもそのはず、スノーボードの経験者だったのです。スノーボードでの感覚を思い出したランガは、シャドウと一進一退で競り合うほどの滑りを見せ、観客たちも一気に湧き上がります。
レースの終盤、焦ったシャドウは妨害のため廃工場内で爆竹を放ちます。無数の火花が雪のように舞い散る中、華麗にジャンプを決めるランガ。
その時、俺は確かに見たんだ。この沖縄に舞う白い雪を……
ランガのジャンプに見入ってしまう暦。今までスケートボードのトリックだけを見てきた暦にとって、ランガのジャンプは見たことのない全く新しいものだったのでしょう。
暦の瞳にランガの跳ぶ姿がしっかりと映し込まれている描写に、同じ内海監督作品ということで『BANANA FISH』で高い塀を英二が跳び越える姿を見つめるアッシュを想起しました。アッシュと英二のように、きっとランガと暦の2人の間に生まれた絆は、断ち切ることなどできない深いものになっていくのだろうなと感じさせてくれる、美しく素敵な場面です。
第2話 はじめてのサイコー
スノボやってた? 聞いてねえぞ。何だよそれ。何なんだよ。ランガ、お前……すっげえじゃん‼︎
シャドーとのビーフで最後にランガが見せたジャンプ(スノーボードのバックサイドロデオという技のようです)に一夜明けても目を輝かせ大興奮している暦。
暦にねだられ、ランガはボードに足をガムテープで固定して公園を滑り始めます。しかし路上でのスケートボードは勝手が違い、ランガは危うく車に轢かれそうに。レースの時の滑りとの落差があまりに大きく全然別人だと言う暦に対して、ランガは自分でもよく分からないと答えています。
たぶん、ランガは本番にめちゃくちゃ強い子なんですね。普段が穏やかな分、アドレナリンが出てくると眠れる獅子が目を覚まして一気に爆発するというような。そのことをランガは自覚していないのでしょう。
またボードを貸して欲しいと言うランガ。
でも、昨日お前が乗ったのはスノボじゃない、スケートだ。スケート、マジでやりてえの?
やりたい スケート、滑りたい
気持ちを確かめる問いかけに、まっすぐに目を見て即答するランガに、うれしそうに微笑む暦。
早速暦は、学校や公園でランガに練習をつけ始めます。スケートボードに乗ることさえもうまくいかないランガに毎日一つひとつ丁寧に教えていく暦。教えるのが上手なんですよね。暦の面倒見の良さが感じられます。
ある程度滑れるようになってきたランガは、次の段階のジャンプ技のオーリーに挑戦を開始。スノーボードと違って足をボードに固定しないことに苦心し、ランガは弱気になってしまいます。
もっと先の世界を知りたいならオーリーは絶対だと言い切り叱咤激励する暦。しかし2歳から続けてきたというスノーボードの感覚が抜けないのも当然と頭を切り替えた暦は、ランガを家に招いて足が固定できるボードを自作してあげることに。
ランガの滑り方から、彼がどんなことに不安感を持っているか、見事に言い当てていく暦。そして一枚の板から切り出し、サイズも仕様もランガ専用のデッキの制作を始めます。机の上に置かれた手書きの仕様書にはランガ用ということで「グーフィー用」「スノボ経験者」の他に「背高め足長め」とメモ書きされていたりします。
ウィール(車輪)やトラック(車軸)といったパーツの説明をする流れで、暦が見せた街中を滑るスケーターたちの動画に思わずランガは見入ってしまいます。雪山に行かなければ滑れないスノーボードと違い、スケートボードならどんな時でもどんな場所でも滑れると素直に驚くランガ。
時間も場所も可能性も、スケートは無限なんだ
キラキラした表情で語る暦の情熱に引き込まれるように、ランガはスケートボードに夢中になっていきます。
足を固定するバインディング付きのランガ専用デッキも完成。時間を惜しんで練習に明け暮れる暦とランガ。
そんな時、ランガは父親が亡くなったため沖縄に来たと知った暦は、雪が降らずスノーボードができない沖縄はつまらないかと尋ねます。スケートボードの練習をしているけれど、ランガの本心はスノーボードをやりたいと思っているのではないか。ランガの答えを待つ暦の表情が不安そうなんですよ。ランガにとって暦は沖縄の最初の友人ですが、暦にとってもランガはずっと求めてきたスケートボードを共に楽しめる仲間なんですよね。
父親の死によりスノーボードから離れてしまっていたランガ。しかし沖縄に来て、暦とスケートボードに出会いました。
ひさしぶりに板に乗ったら 何でかな 今は楽しいんだ
着地に失敗したものの、ランガは初めてオーリーに成功。ちょっとぎこちないDAPで喜び合う2人。
ランガがたったの2週間でオーリーをできるようになったと自分のこと以上に喜び、「こいつ天才っすよ!」とバイト先の店長にうれしそうに報告する暦。そんなところにMIYAが店を訪れます。彼はまだ中学生ながら日本代表候補。トップアスリートの来店に驚く暦達を尻目に、MIYAはランガにビーフを申し込みます。彼はある人物からランガとビーフをするよう、焚き付けられて来たのです。
シャドウに勝ったランガ。彼は自分が知らぬ間に「S」を知る人々から「スノウ」と呼ばれ、その滑りに注目を浴びる存在になっていたのです。
第3話 望まない勇者
日本代表候補のMIYAが相手ではレベルが違いすぎると言う暦の言葉を聞かず、ランガはビーフの申し出を受けてしまいます。その理由を楽しそうだったからと言うランガに、それまで彼の心配をしていた暦も思わず笑顔になります。暦にとってスケートボードは楽しいもの。同じスケーター同士、暦もランガの感じている楽しさを理解しているのです。
調整のため「S」のコースに1人で訪れたMIYAは、ランガと暦の姿を見つけます。
雑魚モンスターってさ いっつも群れてるよね
暦をスライムと呼び、挑発するMIYA。怒って追いかけてきた暦に「真似てみろ」と言わんばかりにトリックを繰り出していきます。提示されたトリックをこなして見みせるものの日本代表候補のMIYAの高い技術には及ばず、失敗して転んでしまう暦。
才能のない奴は引っ込んでなよ
暦にそう言い放ち、後から追いかけてきたランガに対しても、本当にシャドウに勝ったのかとからかうMIYA。ランガの滑りにMIYAが本気になりかけますが、足を固定するベルトが切れてランガは転んでしまい、前哨戦はうやむやに終わってしまいます。
ランガのデッキにトゥグリップを取り付けた暦。それでもやはりランガは転倒してしまいます。スノーボードとは違い、スケートボードは車輪のせいで横に進もうとすると摩擦が急に大きくなるため、カーブで引っかけてしまうのです。そこで暦はキャスター付きの椅子の脚をヒントに、ランガのデッキにトラックが回転し車輪が進行方向に向くよう改良を施します。
ビーフ当日、改良したデッキをランガに届けにきた暦を見たMIYAは、勝負に勝ったら暦に自分の犬になってもらう、と言い放ちます。MIYAは中学生ながら一目置かれる実力を持つスケーター。ちょっと生意気なのは仕方ないかとも思いますが、特に暦に対してあからさまに見下した態度を取っていますよね。MIYAは飛び抜けた実力をつけたことで、同年代の仲間から疎まれています。そのため彼は群れる人間には絶対に負けたくないと敵対心を持つことで、その状況を乗り越えてきました。だからランガと暦がいつも一緒にいることに嫌悪感を抱いているんですよね。
シャドウの車で後を追い、ランガに声援を送り続ける暦。シャドウとのビーフを見てランガの実力を認めたジョーとチェリーも現場で見守る中、グングンとスピードを上げる2人。スケートボードの技を出すランガに対し、MIYAも高いトリックを見せます。
先に廃工場内に到着したのはMIYA。進路を塞ぐようにMIYAに滑られ、スピードを出せず焦るランガ。しかし視界に暦の姿を捉えると、ランガは落ち着きを取り戻します。そして激しい競り合いの末、ビーフを制したのはランガでした。
お前、すっげえよ!
暦はランガに飛び付いたというのに、自分の作ったデッキの滑りがサイコーだったぜとまずは自画自賛。滑ったのは自分なのにとランガは拗ねますが「お前の滑りはもっと最高だったぜ」という暦の言葉でようやく機嫌を直し、2人はDAPで喜びを分かち合います。
打ちひしがれるMIYAに、暦はスケートボードを楽しんでいないから負けたのだと言います。暦はMIYAの動画を見て、彼が本当の笑顔を見せていないことに気づいていたのです。
スケートボードを始めた頃は、確かにMIYAも楽しんでいました。しかし彼が上達していくにつれ、仲の良かったはずの仲間は去っていってしまったのです。
俺たちは、お前の前から絶対にいなくならねえ
才能があるが故の孤独にいたMIYA。彼の生意気さは、その裏返しだったのです。暦の言葉に頑なだった心を解き、MIYAがやっと子供らしい笑顔を見せたその直後、ランガとのビーフをMIYAに焚きつけた本人である愛抱夢が現れます。伝説的なスケーターの登場に沸き上がる場内。
しかし彼は冷たい言葉をMIYAに投げつけます。
また空っぽになったね、MIYA。友達もスケートも。君にはもう何もない
まだ中学生のMIYAに対してのあまりにも酷い言葉に怒った暦は、愛抱夢にビーフを挑むのです。
次回は『SK∞ エスケーエイト』の物語のターニングポイントとなる4〜6話について語りたいと思います。
前回は、『SK∞ エスケーエイト』という作品との出会いや登場人物たちについて語っています。興味を持っていただいた方はこちらからどうぞ。