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『SK∞ エスケーエイト』について語りたい ③小さなヒビ割れ

皆さんは『SK∞ エスケーエイト』という作品をご存知でしょうか。沖縄を舞台に、廃鉱山で行われるスケートボードのレースの熱い戦いと暦とランガの2人の友情を描いた内海紘子監督のオリジナルアニメ作品です。

今回は愛抱夢とのビーフから暦の心境に変化が訪れ始めるまでを描く4〜6話について語りたいと思います。

#01 PART 熱い夜に雪が降る

#01 PART 熱い夜に雪が降る

  • メディア: Prime Video

 

第4話 愛のマタドール、愛抱夢

 

俺が勝ったらMIYAに謝ってもらうぞ

 

正義感から愛抱夢に勝負を挑む暦。MIYAは同情なんてするなと言いますが、暦は「愛抱夢のような奴が大嫌いなだけだ」と引きません。暦にとってスケートボードは人を傷つけるものではないんです。

シャドウとの一戦からランガに目をつけていた愛抱夢は、自分が勝ったら次はランガと滑るという交換条件を提示。ランガもそれを承諾します。

愛抱夢に対し怒りから勝負を挑む暦と、まだ他人事だということもあって伝説のスケーターの愛抱夢にワクワクしているランガ。この時点で暦とランガの間には、愛抱夢に対する気持ちに差が生じ始めています

愛抱夢とのビーフを止めるようジョーから忠告を受けますが、侮辱されたMIYAと巻き込まれたランガのためにも引くつもりの無い暦。

そんな彼のために、MIYAは練習メニューを作ってきてくれます。素直に言葉にはしませんが、暦の力になりたいと思っているんですよね。良い子です。

愛抱夢に勝つためには必須だと、MIYAの指導の下で暦はレールスライドの練習を何度も繰り返しますが、その成功率は2割ほど。その後も暦は練習を重ね、ビーフ当日を迎えます。

盛り上がりを見せる会場。愛抱夢の滑りが見られると観客たちは大興奮。「どちらが勝つか」などと話す者はいません。なぜなら、愛抱夢は「S」の創始者であり神とも言われる無敗のチャンピオン。勝つのは愛抱夢に決まっているのですから。

そこに、いよいよ始まるビーフを妨害するように姿を現したジョーとチェリー。彼らが愛抱夢にビーフを申し込んだことで、実力者3人での頂上決戦実現かと盛り上がる観客たち。AI書道家のチェリー、イタリアンのオーナーシェフのジョー、代々続く国会議員の愛抱夢。それぞれの昼の顔を持つ彼らは「S」の始まるずっと以前からの知り合い。7年もの因縁を抱え、ジョーとチェリーは愛抱夢とビーフをする機会をずっと待っていたのです。

しかし暦にとってはこれは真剣勝負。ジョーとチェリーも一緒に滑るかなどと言い出す愛抱夢を「逃げるな」と挑発。とうとう2人のビーフが始まります。この時、挑発された愛抱夢は暦に鋭い角のついたノーズを、ランガにはハートの形をしたテイルを眼前に突きつけているんですよね。気持ちダダ漏れ。演出が細かいです。

謎に包まれた伝説のスケーター愛抱夢。「愛抱夢はスケートは愛の儀式だと言いながらビーフの相手に大ケガをさせてきた」とジョーは言い、「愛抱夢はスケーター潰しのためにビーフをしている」とシャドウは深刻な表情を見せ、重力に逆らうように坂を登る「ラブハッグ」という愛抱夢のトリックの噂をMIYAが口にするなど、何度も繰り返し愛抱夢は危険なスケーターだと語られてきました。

一体どんな滑りを見せるのか。固唾を飲んで見守りますが、暦が滑り出したというのに愛抱夢はスタート地点でタバコを吸い始めてしまいます。彼にとって暦は雑魚に過ぎないのです。

 

たいしたことのない食材でも、手間のかけ方で多少は美味しく食べられる

 

暦のことをそう表現する愛抱夢。イヤな感じですねー。これぞ敵役って感じです。タバコを咥え、ようやく滑り出した愛抱夢は、凄まじいスピードであっという間に暦に追いついてしまいます。

 

君に本当のSを味わわせてあげよう

 

ピタリと寄せると、暦のボードに足をかけて彼の腕を掴む愛抱夢。まるで一つのボードに2人で乗っているような状態で、愛抱夢はスピードを落とさずカーブに突っ込んでいきます。暦は自由を奪われ、後頭部を打ちつけそうなほど地面スレスレまで体を倒されるなど、されるがまま。恐怖に顔を強張らせる暦。からかうような愛抱夢の表情。

 

やり過ぎだ

 

いたぶるような愛抱夢の滑りに見ていられなくなり、バイクで2人を追うランガ。戦意を失いかけながらも、暦はランガの言葉を思い出して自分を奮い立たせ、特訓したトリックで愛抱夢を抜き去ります。

しかしこのままレースは終わりません。愛抱夢は再び暦を追い越し、ラブハッグを繰り出したのです。スピードを出した状態で滑り降りていく暦に、真正面から向かってくる愛抱夢。衝突の恐怖心からバランスを崩した暦は、地面に叩きつけられてしまいます。倒れたまま動けない暦に慌てて駆け寄るランガ。

 

改めましてランガくん。
ようやく君と滑れるね。

 

負傷している暦に一瞥もくれず、ランガに妖しく微笑む愛抱夢。愛抱夢の標的は始めからランガなのです

 

第5話 情熱のダンシングNight!

愛抱夢とのビーフで頭と腕に全治2週間の傷を負った暦。自分のために滑ってくれた暦に、MIYAはゴーレムくらいに格上げしてもいいと遠回しに礼を言います。

愛抱夢と滑らなければならなくなったランガに、自分のせいで巻き込んでしまったと謝る暦。しかしランガは愛抱夢とのビーフに高揚感を感じており、そのことを暦も感じ取ります。

暦が愛抱夢のラブハッグに感じた恐怖は大きく、自分と同じようにランガが地面に叩きつけられる夢を見て、思わずランガの名を叫んでしまうほど。しかし暦がいくら止めても、ランガは「愛抱夢と滑る」の一点張り。

困った暦は愛抱夢について教えてほしいと、チェリーをランガが練習しているパークに連れていきます。そこには愛抱夢がビーフで出したキャスパースライドというトリックをこなしているランガの姿が。MIYAが少し基本を教えただけで超難度のトリックを易々こなすようになっているランガ。レールスライドですら自分は何日もかかったのにと、暦は衝撃を受けます。

ランガの滑りに勝てる可能性を見たチェリーは、暦たちを連れてジョーの店を訪れ、彼らにラブハックの仕組みを解説します。高速で滑り降りてUターンをした直後にノーズを勢いよく落とすことで登りでも推進力を生じさせていること、自分が滑り降りていることで愛抱夢が急接近しているように錯覚すること、そしてラブハッグは相手を真正面を捉える必要があることが判明します。

 

体もブレず減速もせず、あの一瞬でそれができるなんて……

 

ランガの呟きから愛抱夢に対する恐れとは違う感情を感じ取り、表情を曇らせる暦。愛抱夢の登場によって暦とランガの間に生じたズレは、少しずつ大きくなっていきます。

ラブハッグの仕組みは簡単。しかし正面衝突の恐怖で体は萎縮してしまいます。臆せずにいることは非常に難しいことなのです。

ランガにバイクで家まで送ってもらった暦は、自分がスケートボードを始めるきっかけを作ってくれた友達が大ケガでスケートを辞めてしまった過去を話し、今までとは全く違う言葉で改めて愛抱夢とのビーフを止めます。

 

頼む。愛抱夢とは滑らないでくれ。

 

ランガを危険に巻き込みたくない。ランガを勝たせてやりたい。相反する2つの思いを抱え、暦は常にランガのことを思って行動してきました。愛抱夢とのビーフを止めるよう説得したのも、愛抱夢の情報を得ようとチェリーに直談判したのも、全てランガのため。

勝機はあるかもしれませんが、それでも愛抱夢が危険なスケーターであることは変わりません。暦にとってランガは絶対に失いたくない大事な仲間。ここで初めて暦は自分の素の感情をランガにぶつけて「頼んだ」んです。しかし、それでもランガは愛抱夢と滑ってみたいと返します。

 

ケガしてもスケートやめないから。だから大丈夫。

 

少しの迷いも無く言い切るランガ。ここでさらに暦が食い下がれば、ランガを信じていないことになってしまいます。もう、暦はランガを送り出すしかないですよね。

 

無茶すんなよ。

 

暦がランガに向けた穏やかな笑顔。それはランガのために、暦が自分の気持ちを抑え込んだ表情だったのではないでしょうか。いつもはハイタッチの後に拳を突き合わせていた2人のDAP。しかしこの時の2人の拳はすれ違い、暦がランガの胸をトンと軽く突いて終わります。2人の間の感情のズレを感じさせる描写です。

いよいよ始まるランガと愛抱夢のビーフ。真っ赤な薔薇の花束を手渡し、ランガにアピールしてくる愛抱夢。さすがレジェンド。全く照れがありません。もうすっかり愛抱夢のお気に入りになっているランガですが、彼は図らずもこのビーフでさらに愛抱夢の心に火をつけてしまうんです。

暦の時と同様に、すぐには滑り出さずスタート地点でタバコを吸おうとする愛抱夢。しかしランガもスタートせず横目でチラリと愛抱夢を窺います。肝が据わったランガの振る舞い。愛抱夢に好印象です。

 

失礼したね、スノウ。

 

改めてスタートを切る愛抱夢とランガ。チェリーの助言に従い、ランガはカーブで愛抱夢を抜き去ります。しかし圧倒的にスピードもテクニックも愛抱夢が上。愛抱夢はランガの背後に回り腰と手を掴むと、滑りながらタンゴを踊るように彼に次々と無理な体勢を取らせていきます。愛抱夢に振り回され、ランガは顔を歪ませますが、それでも自ら愛抱夢に体を寄せて体勢を立て直します。恐怖の中でも微笑んでいたランガ。そのことを愛抱夢は見逃してはいません。

 

どうやら君は僕と同じ人種らしい。

 

ランガの滑る軌道を予測し、カーブでラブハッグを繰り出す愛抱夢。ランガは迫ってくる愛抱夢にあえて近づき、彼の頭上を飛び越えてラブハッグをかわします。華麗に跳ぶランガ。愛抱夢の眼にはその姿が、降り注ぐ光の中を飛ぶ天使のように映るんです。ランガの背中に翼を見ちゃったんですよ。もはや宗教画です。これが愛抱夢にとって決定打になります。

 

見つけた。君こそが僕のイヴだ。

 

ああ……愛抱夢、ランガに射抜かれちゃったなって思いましたよ。

ランガならば自分と同じ世界に来ることができると確信した愛抱夢。スピードを上げる愛抱夢を追ううち、ランガは引き寄せられていくような不思議な感覚を覚えます。

しかしその瞬間、鳴り響くパトカーのサイレン音。ここは立ち入り禁止の廃鉱山。ビーフは中断、観客たちも皆逃げ出します。警察官に職質されそうになりながらもバイクでその場からなんとか逃れ、パトカーをやり過ごしてひと息つく暦とランガ。

 

ランガ。もうアイツとは関わるな。

 

いつになく強い口調で約束させようとする暦。暦に押されてランガは「うん」と答えるものの、愛抱夢とのビーフで感じた不思議な感覚を思い出してしまうのです。

 

第6話 湯けむりミステリースケート⁈

すっかり暦に懐いたMIYAがケガに効くという温泉を紹介し、暦、ランガ、MIYA、シャドウの4人で宮古島へ湯治に行くことに。その船には偶然に乗り合わせていたジョーやチェリーとも合流します。

島に上陸するなり一斉にスケートボードで滑り出す暦たち。いつもと違う場所でテンションの上がったジョーが繰り出すトリックに暦は目を見張り、沖縄に来て日の浅いランガは見えてきたビーチにいつになく大興奮。海なんて珍しくないと言いつつも、皆で海へ向かうことに。

 

入ってこその海だろ?

 

水着に着替え、ビーチボールで遊んだり、浮き輪で波を楽しんだり、ジョーのナンパを邪魔したりと、いつも以上に楽しそうにはしゃいでいる暦たちに、こちらもほっこりしてきます。

これは自分のための旅行。皆と一緒に楽しんではいるものの、暦の胸の中にある急激にスケートの腕前を上げたランガに対する焦りの気持ちが時折頭をもたげます

 

休んでる場合じゃねえぞ

 

ジョーに、昼間やっていたトリックを教えて欲しいと頼む暦。この場面、暦とジョーの二人だけの会話なんですよね。いつもなら暦はランガも誘って教えてもらおうとすると思いますが、今は違うんです。ランガには内緒なんですよ。

超難度のトリックを楽々こなすようになったランガ。暦はランガの一番近くで滑りを見続けてきたからこそ、彼が格段に上手くなっていることを実感しています。素直にランガをすごいと認められる暦は、彼の実力を客観的に見ることができるのです。暦は自分が完全に超されてしまわぬよう、ランガがまだできないトリックを先にマスターしていたいんですよね。

ジョーにトリックのコツを聞きますが、できる気がしないと弱音を吐く暦。

 

もっと上手くなりたいんだ。
置いていかれたくない。

 

前向きに奮い立たせる言葉に聞こえますが、暦の表情には深刻さが漂います。こんな暦は初めてですね。

この旅行の目的であるケガに効くという温泉は、旅館から約5キロ離れた山の中。このメンバーで、ただ温泉に向かうわけがありません。ビーフにちょうど良い距離だと、それぞれ地図を手に一斉に温泉に向かうことになります。

しかし幽霊が苦手な暦は、「今日は特別な日で『出る』から、日が暮れてからは決して出歩かないように」と旅館の女将さんに言われたとMIYAから聞いて戦々恐々。夜に外出すること自体に全く乗り気でなく、一人取り残されてしまいます。

皆が「S」さながらの滑りを見せる中、暦が来ていないことに気づいたランガは引き返して道に迷っている暦と合流、2人でゆっくり温泉へと向かいます。しかしその途中で異臭を放つ泥に塗れて倒れているシャドウとMIYAを発見。暦とランガは、自分たちもなぜか白い仮面で全身泥だらけの何者かに追いかけ回されることに。

これはパーントゥという宮古島の厄払いの伝統行事。誰彼構わず泥を塗りつけるというもので、この泥が数日臭いが取れないほどの強烈に臭いんです。

暦とランガは「臭い」「怖い」と叫びながらスケートボードで逃げ回りますが、なんとパーントゥもスケートボードで追いかけてきます。しかもなかなかの腕前。逃げるのに必死な暦に対し、パーントゥの滑りに感心しているランガ。後ろから追ってくるパーントゥから逃げ切ったと思いきや、前に待ち構える何人ものパーントゥに暦とランガも泥を塗られてしまいます。

目的の温泉にもパーントゥは出没。先に到着していたジョーとチェリーも泥まみれに。全員がパーントゥに塗られた泥の匂いを漂わせながら帰る羽目になります。

 この6話、物語後半に入る前の息抜きの回のようにも感じられますが、実はこの後の展開をとてもよく暗示している回なんです。

旅行先の宮古島で皆で終始楽しげに過ごしている中、沈んだ表情を見せ始める暦。これまでできるか出来ないかの前に笑顔でとにかくチャレンジしていた前向きで明るかった暦に、大きな変化が訪れているのは明らか。この6話を境に、物語は大きく転換していくことになります。

全話見終わった後、ぜひこの6話を見返してください。きっとこの後の展開とリンクしている部分に気づき、より一層楽しめるはずです。

 

次回は暦に大きな変化が訪れ、ジョー・チェリー・愛抱夢の過去が明らかになる『SK∞ エスケーエイト』の7〜8話について語りたいと思います。

 

前回は、暦とランガが出会う『SK∞  エスケーエイト』の1〜3話について語っています。興味を持っていただいた方はこちらからどうぞ。

isanamaru.hatenablog.com