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BL『恋する鉄面皮』5巻(斉藤×富田編)について語りたい

皆さんは中田アキラ先生『恋する鉄面皮』という作品をご存知ですか? この作品は2組のカップルの物語を交互に見せていくシリーズとなっています。見るからに美形同士の営業部エースの北川と開発部のホープ夏目のカップルの物語から始まりましたが、夏目の同僚で一重まぶたのあっさりした顔立ちの富田がバーを経営する大人の男の色気たっぷりな斉藤に陥落してカップルとなったことで、私はどハマりしました。この5巻では初めて斉藤目線で本編が進んでいきます。

ということで、今回はこの『恋する鉄面皮』5巻について語っていきたいと思います。

性描写がある作品なので、未成年の方はごめんなさい。大人の方だけこの先をお読みくださいね。

ネタバレを含みますのでネタバレ苦手な方は注意してお読みください。

 

 

富田は愛され下手

夏目の気が利く良き友人ポジで登場した富田が、がっつりと斉藤に籠絡され落とされた2巻。夏目の元彼を追い払うために偽の彼氏役を斉藤が演じることになり、富田がモヤっとしていた3巻。北川の同僚の田原に想いを寄せられていることに全く気づかないでいる富田を、黙って斉藤が見守っていた4巻。続くこの5巻では、斉藤が富田との時間を増やそうと店にアルバイトで坂本という青年を雇い入れたことから、思わぬ波風が立っていきます。

斉藤が雇った坂本という青年、接客は落ち着いているしシェークカクテルも得意とあって、目つきがキツい以外にこれといった問題はなし。面接の時にふと感じた違和感も杞憂に終わったかと思ったところで、店に来ていた斉藤の友人の三枝に泥酔させられた坂本が富田に襲いかかろうとするという事件が起きてしまうんです。

実は坂本の姉は、斉藤のシェフ時代の同僚。斉藤に思いを寄せていた彼女が斉藤の元妻である圭子にハサミで襲いかかったという過去があるんです。姉がそこまで惚れた男がどんな奴かを、坂本は自分の目で確かめようとしていたんです。

そのことを知り、坂本の姉が今どうしているかを気にかける富田。しかし斉藤は、坂本の姉には一切関心を向けようとはしません。斉藤は富田を大事に思っているからこそ、坂本の姉とのことはキッパリと否定したんですよね。

これならきっと富田も、自分が斉藤に愛されているってことを実感して安心してくれたはず。と、思いますよね。私も思いました。しかし、自分が思った以上に坂本の姉に対してドライな反応を見せた斉藤に、富田はちょっとモヤモヤしたものを感じてしまうんです。そこが富田の可愛くて厄介なところ。そして分かりにくいところでもあります。

人当たりがよく、誰とでも仲良くなってしまう富田。斉藤の友人の三枝とはいつの間にか飲み仲間になっていますし、斉藤の元妻である圭子にいたく気に入られ、2人で飲みつつ話を聞いてもらったりして斉藤との仲を応援されたりさえしています。また、ふらりと立ち寄った坂本が働く老舗のバーで、たまたま飲んでいた夏目の元カレの梶原に声をかけられれば、避けても良いのに隣に座って会話を交わして飲みはじめるし、トラブルを起こして会うのが気まずいはずの坂本の作ったカクテルを美味しいと飲み、楽しそうにしていたと不思議がられてもいます。

一見、富田って社交的に見えますよね。ですが彼は、出会って縁ができた人とはずっと繋がりを持ち続けていたいし、自分と一緒に過ごす人には気分良く過ごしてほしいと思う人。実はかなり他人に気を遣っている繊細さんなんです。

そんな富田は、他人のことはあれこれ気にかけるのに、自分が大切にされるのはとても苦手。彼は自己評価がとても低いんですよね。そのため、これから先も坂本の姉を気にかけるつもりなど一切ないと証明するように斉藤が自分を抱いてくれたことをうれしく感じながらも、彼は素直に浮かれることができません。斉藤が選んだのは富田なんです。けれどそのことを一瞬でも喜んでしまい、会ったこともない坂本の姉に対して優越感を抱いてしまったことに、富田は「我ながらサイテー」と自己嫌悪してしまうんですよ。

自分が愛されて当然なんて、思わないし思えない富田。自分が愛され大切にされることに、居心地の悪ささえ感じてしまうんです。「愛されすぎて怖い」というか「愛されすぎて申し訳ない」みたいな感じ。愛されてるんだから、もっと自己肯定感MAXになっててもいいんです。なのに斉藤に会う前はこんなことを思ったことなんて無かったと、自分の中の変化にショックを受けてたりもしていて、どうしてそんなに愛され下手な人なの、富田は?ってハラハラしてしまいます。

でも、圭子のように斉藤の「特別な存在」から降りることを選ぶことになる前に、富田が自分の口から斉藤に自分が感じる苦しさを伝えることができていたのでホッとしました。

 

初めての本気の相手

そんな愛され下手な富田を、斉藤はどのような気持ちで見守っているのか。今まではほとんど知ることができなかった斉藤の内面が、この5巻では彼自身のモノローグで語られていくことになります。

2巻を読んでいる時点では、言葉巧みに富田に身体の関係を持ちかけ徐々に離れられなくさせていく斉藤を見ながら、こんな手練れの大人の男性を相手にしたら、富田はとてもじゃないけれど逃れられないよなーと思っていました。

4巻では、富田が会社の同僚の田原から思いを寄せられていることに気づきながらも、そのことを富田にはわざわざ言うことはせずに、しっかり田原にけん制もしつつ敢えて黙って見守り続けていた斉藤に、大人の度量の大きさも感じていました。

しかし本当は、思っていたよりもずっと斉藤は余裕が無くて必死になっているんだなということがわかるんですよ。

斉藤は富田よりも歳上だし、両刀だし、バツイチで子供もいます。さらには大学生の頃は特定の相手を作らず複数の相手がいたと斉藤の元妻の圭子が話していたりして、なかなか経験豊富な様子です。でもそれは、あくまでも「遊び」の相手に対する経験でしかありません。

圭子自身も複数の相手のうちの1人だったということで、斉藤にとって彼女も最初は遊びの相手でしかなかったんでしょう。でも圭子が妊娠をしたのをきっかけに、結婚をして「特別な存在」として彼女と関係を築こうとしたものの、結局は彼女とは離婚することになってしまっています。斉藤は遊びの相手と付き合うことには慣れていても、本当に大切にしたい相手とちゃんと向き合おうと意識して関係を育んでいくという経験は、あまり無かったのではないでしょうか。

「ガチの子は相手にしなかった」と圭子が言っているように、斉藤はあくまで「遊び」として程よい関係を保てる人だけを相手に選んでいたのでしょう。だから相手との恋の駆け引き的なものも、ゲームのように楽しむことができていたのかもしれません。でも富田は、斉藤が自ら逃したくないと手を伸ばして掴みに行った相手。富田に対しては、最初から「遊び」ではないんです。

しかも、これまでのように駆け引きをしようとしても富田は乗ろうとはせず、むしろ逃げ出そうとするような人。斉藤はそんな性格の人とは、あまり関わりを持ってこなかったんじゃないかと思うんです。自分から掴み取りに行った相手なのだから今度こそ失敗したくないのに、富田は今まで彼が経験したことのないタイプ。今までのセオリーが通用しないこともしばしば。なので余計に富田の反応がうまく掴めず、斉藤は困惑を感じてしまうし、より真剣にならざるをえないわけです。

富田がどんなことを喜び、どんなことを嫌がるか、ものすごく富田のことを観察してそのさじ加減を考えながら斉藤はかなり慎重に行動しています。まるで複雑な機械の取扱説明書の記載事項を読み込み、細かく確認を取りながら操作を進めていっているような感じ。それでも何か見落としがあるんじゃないかと気になってしまうんですから、相当彼は必死ですよ。それは富田が斉藤にとって「本気の相手」だから。それはモノローグの多さからも感じられますよね。

半年以上付き合いが続いたことがないという富田は、斉藤に出会ったことによって起きている自分の気持ちの変化を初めて感じて戸惑っていますが、斉藤の方でも、相手の手を繋ぎ続ける努力というものを、富田と出会って初めて経験しているんです。斉藤も富田も互いに、初めて本命の相手と向き合い、手探りで関係を深めているわけですよ。今までh斉藤が富田を手のひらの上でコロコロと転がしているように見えていたので、なんとなく掴みどころが無い人だなと感じていましたが、5巻を読んで急に彼が可愛く見えてきました。

 

隠し球があります

遠慮して自分の要望を言い出せずにのみこんでしまう富田と、彼のことを観察してさりげなく背中を押せるように立ち回ってくれる斉藤。ちょうど良く噛み合っていて、2人の相性が良いことを感じた5巻。この先しばらくは斉藤がリードして進んでいくことになりそうですが、描き下ろしで実は富田に「隠し球」があることが判明します。

実は富田は、まだ自分から斉藤へ直接気持ちを伝える言葉を口にしてないんですよ。確かに振り返ってみると、斉藤は富田に言葉は求めていません。照れ屋な富田に言葉を求めてしまうのはハードルが高くて困らせてしまうだけだと、斉藤にはわかっているからなんでしょう。

でもいつか、富田の方から自分の熱い気持ちを言葉にして斉藤にぶつけるなんて場面が見られるのかもしれませんよね。その時を首を長くしてまっていようと思います。

 

『恋する鉄面皮』4巻について語っている記事に興味をお持ちいただいた方はこちらからどうぞ。

isanamaru.hatenablog.com