観て聴いて読んで書く

マンガ、アニメ、ゲームなど好きだと思ったものについて無節操に書き綴ります

エロ描写なし! ピュアなBL作品について語りたい

 

BL作品読みたいけど、エロは苦手だな、エロは必要ないなって思っている方もいらっしゃると思います。BLは男性同士の恋を描いた作品。確かにエロティックな展開をメインにした作品もありますが、好きな人を想う気持ちの揺れ動きや、男性同士の恋愛だからこその葛藤や切なさなど、心情描写を存分に味わえる作品だっていっぱいあります。

ということで、今回はキスシーンまでエロ描写なしのピュアなBL作品について語りたいと思います。

 

 

瑞々しい男子高校生の恋

ピュアといえば男子高校生! 男子高校生といえばピュア! ということで、まず最初に語るのは、古矢渚先生『群青のすべて』という作品です。カバーイラストの空の青さがとても印象的ですが、この空以上に物語は青く透明で爽やかなんです。

 

 

中学1年から高校2年まで、ずっと同じクラスだった牧原快(まきはら かい)と水代漣(みずしろ れん)は、いつも当たり前のようにつるんでいたというのに、高校最後の年になって初めて別々のクラスに分かれてしまいます。漣のいない教室は味気なく、戸惑いと寂しさを感じる快。

中学で出会ってから少しずつ2人で時間を重ねていく中で、自分の漣に対して抱いている気持ちに変化が起きていることを感じていた快は、あくまでも漣と友達としてい続けようと、その気持ちに蓋をすることを決めます。

でも、押さえ込んでも想いは簡単には消えてはくれませんよね。むしろ募るばかりですよ。クラスの女子と漣が話をしているのを見ては胸がざわつき、体育の授業で自分が頭を打ったことを知った漣がわざわざ保健室に様子を見にきてくれたことにうれしさを感じてしまう快。それでも彼は、想いを表情にも態度にも出さないように、懸命に隠し通そうとします。

いつまでも一緒にはいられないと頭ではわかっていても、そばにいられる時間が1秒でも長く続いてほしいと願ってしまう心。漣が自分にとって大事な存在だからこそ、快は心を許してもらえる友達であり続けたいんですよ。だって、好きだという気持ちを伝えてしまったら、もう元には戻れなくなってしまうんですから。

BL作品って、明確に次の巻に続くものより一冊で完結するというイメージがあります。一冊の中で、出会って想いを自覚し伝え合って体を重ねて、ちょっとした波乱があってすれ違いが起きて、でも最後に互いの気持ちを確かめ合って終わるというような感じ。盛りだくさんで、話の展開するスピードがとても速いものが多いなと感じます。

でも古矢先生の作品は、どれも小さな心の揺れや微かな胸の痛みをすくい上げて描かれているものばかり。この『群青のすべて』でも、本当に丁寧に繊細に快の秘めた想いが描かれていきます。大きな出来事は起きませんし、登場人物たちの言動も表情も控えめ。だからこそ、言葉にできない想いが胸に迫ってくるんです。

友達でいたい。けれど気持ちはもう友達では納まりきれない。離れたくない。でも離れ離れに慣れなければいけない。彼女ができたという漣からのメッセージに、胸の痛みを堪えて「友達らしく」祝福の言葉を返す快。快が何もないように振る舞うほどに、読んでいるこちらの胸がキュッと締め付けられてしまいます。

先回りして自分の気持ちを抑えてしまう快とは対照的に、少し人の気持ちに疎い漣。漣が眠っているからと快が口にした言葉から、想いを寄せられていることを知りますが、どうしていいか分からないまま今まで通りに接し続け、クラスの女の子と付き合い始めてしまったりもしてしまいます。そして距離を置くようにすると快に告げられて初めて、もしもこのまま疎遠になって卒業を迎えることになったらと、不安と焦りを覚える漣。あまりにも馴染みすぎていて、快と一緒にいることが決して当たり前のことじゃないと気づけていなかったんですよね。

自分の気持ちに向き合い、答えを出した漣が絶対離さないって感じで快の腕を掴んだまま伝える言葉が、本当に良いんですよ! 青春そのもの! まさしく友情が恋に変わっていく瞬間を見守ることができるんですよ! 漣のセリフを紹介したくてウズウズしてしまうんですが、これはぜひ読んでいただき、その言葉に萌え転げて欲しいです。

本当に素直に誠実に真摯に一生懸命に好きだと伝える言葉って、心を射抜きますよね。読むたびにウルッとさせられてしまいますし、心がきれいに浄化されていくのを感じます。そして、この作品の『群青のすべて』というタイトル、これがとても秀逸。好きな人といると、世界は鮮やかに色づくんですよ。本当に爽やかで瑞々しい青春の恋の物語です。

 

恋もケーキも優しく甘く

次に語りたい作品は、芹澤知先生『グレープフルーツムーン』。ケーキ屋を舞台とする物語で、出てくるケーキがどれも美味しそうなんですよ。読むと無性にケーキが食べたくなる作品。

 

 

とにかくケーキが大好きな大学生八木谷香月(やきがや かづき)は、パティシエにはなれなくてもケーキに関わる仕事は諦めきれないと、ケーキ屋の経営を夢見ています。そんな彼は、リニューアルオープンした昔馴染みのケーキ屋のオーナーに声をかけられアルバイトをすることに。厨房に行くと、自分が知っているパティシエではなく、店の前で配達員と間違えてしまった男性がケーキを作っていることに驚きます。

この男性は堺洋一郎(さかい よういちろう)。ケーキ屋のパティシエであったオーナーの兄が亡くなり、彼がその後を引き継いだのです。洋一郎の作ったケーキは先代の味を完璧に再現しており、常連さんもパティシエの交代に気づかないほど。出会った時の印象は良くはありませんでしたが、香月は洋一郎の腕の確かさと面倒見の良さに心を開き、心酔するようになっていきます。

香月が明るくて素直で瞳がキラキラしていて、すごく可愛い子なんですよね。まるで子犬のよう。懐かれたら洋一郎もうれしいよなあと思います。

ある時香月は、洋一郎がこの店に来る前は五つ星ホテルの帝東ホテルで働いていたことを、アルバイト仲間の桜井から聞かされます。しかも、洋一郎の同期には世界的な有名パティシエの二階堂塵がおり、2人がライバル関係だったこと、そして二階堂が洋一郎のケーキのレシピを盗んで独立したという噂があることを知り、複雑な思いを抱く香月。

洋一郎の腕が確かだからこそ、この店が救われたのは事実。でも先代の味を再現するだけの雇われパティシエでは、せっかくの洋一郎の才能を無駄にしてしまう。香月は、このケーキ屋を盛り上げて集客するために何ができるか考え、実行に移し、アクシデントも乗り越えていきます。そんな香月の行動力に感心する洋一郎。洋一郎が長髪切れ長目のイケメンだという追加要素もあり、お店にはお客様が溢れ、活気に満ちていきます。

不器用すぎてパティシエを諦めた香月は、洋一郎の手は神様の手と言うほどに強い憧れを抱いています。だからこそ、洋一郎のケーキをもっとたくさんの人に食べてもらいたいという思いで走り出していきます。一方、ちょっと燃え尽きちゃった感のある洋一郎は、ケーキが大好きだという純粋な気持ちだけで夢に向かっていく香月の姿を眩しく感じるようになっていきます。香月は19歳、洋一郎は31歳と歳は離れていますが、自分に無いものを相手に見出し、恋が芽生えていく2人。リスペクトから恋に変わっていく過程が丁寧に描かれているんですよ。刺激し合い、補い合い、共に同じ方向に向かって歩いていける関係を築いていく2人。そんな関係、いいですよね〜。素敵です。

巻末の書き下ろしでは、高校生の頃の洋一郎が描かれています。香月はいつだって洋一郎の背中を押してくれる存在なんですよね。「甘い糸」で結ばれた2人が共に歩むようになるのは必然のことだったんだなというお話。最後の最後まで多幸感に包まれることができる作品です。

 

こちらの記事でもピュアなBL作品について語っています。興味を持っていただいた方はこちらからどうぞ。

isanamaru.hatenablog.com