皆さんは映画『羅小黒戦記2 ぼくらが望む未来』をご覧になりましたか? この作品は5年前に公開されて話題になり、私もハマりまくった『羅小黒戦記 ぼくが選ぶ未来』(以下、前作)の続編となります。
黒猫の妖精小黒(シャオヘイ)が、人間ではありながら妖精界最強の執行人である無限(ムゲン)の弟子になるまでが描かれていた前作から2年後、新たな任務を受けた無限と共に妖精会館を訪れた小黒が、姉弟子の鹿野(ルーイエ)と出会い、物語が始まります。観終わった後に、サブタイトルにある「ぼくら」という言葉をじっくりと噛み締めたくなる、そんな作品でした。
今回は、この愛すべきこの『羅小黒戦記2 ぼくらが望む未来』について語りたいと思います。
ネタバレが含まれるので、ネタバレダメという方は注意してお読みください。
『羅小黒戦記』の世界
映画『羅小黒戦記 ぼくらが望む未来』(以下『羅小黒戦記2』、もしくは今作)は、中国の漫画家・アニメ監督であるMTJJさんのWebアニメが元になっている作品です。
私はWebアニメを前作を鑑賞した後に見始めたんですが、当然中国語で喋っているので物語を追うのがちょっと大変でした。日本語吹替版が作られてテレビでも放映されているので、映画を見て興味を持った方は見てみると良いかなと思います。
前作の公開が2020年11月でしたので、実に5年ぶりの続編! ということで、こんな動画がアップされています。
白髪のおじいちゃんになり病院のベッドで寝ていたというのに、好きだったアニメの新作映画が公開と聞いて一気に元気になり、隣で寝ていた患者(今作に出てくる池年さん)と踊り出す無限! 作品の内容とは全く関係がないのがまた面白いんですよね。続編公開を待ち侘びていた気持ちを、無限に代わりに表現してもらった感じです。
では、『羅小黒戦記2』本編の予告編はこちら。
まずは前作の映像も絡めた「特報」。
こちらは本予告。
小黒の可愛らしさ、優しい絵柄、アクションのキレのある動きには前作ですっかり魅了されましたが、『羅小黒戦記2』では、飛行機や人間の使うミサイルなどの兵器も出てきてスケールがさらに大きくなっているのがわかります。
私は、前作に出てきた風息(フーシー)というキャラが好きなんですが、彼が出てこないことがわかっているので、前作ほど『羅小黒戦記2』にはハマれないかもなんて思っていたんですよ。スケールが大きくなった分、アクションの絵面の派手さでごまかして物語は雑になってしまっているんじゃないかとも心配になりましたし。
しかし、そんなのはまさに杞憂。予想はあっさりと軽くひっくり返されてしまいました。小黒と姉弟子の鹿野の関係の深まりと、人間と共生を望む妖精と人を信じられない妖精の意見の対立とを同時に見せていき、前作から引き継がれた「共生」というテーマをより深く考えさせられる物語となっていたんです。
―妖精の館のひとつが人間により襲撃され、執行人だが人間である無限は疑いの目を向けられてしまう。容疑者とされてしまった無限の無実を晴らすために、小黒は鹿野と共に行動を起こすが……
妖精の長老たちは妖精と人間の共存を望んでいますし、執行人の無限の他にも妖精会館で働いている人間の職員もいます。しかし、寿命が短く能力も持たないというのにあっという間に自分たちを凌駕する技術を手にして繁栄してしまった人間は、妖精から見れば脅威の存在。そんな人間が対妖精兵器を使って襲撃してきたため、長老たちは無限の長年の功績を知りつつも(無限の寿命は439歳)容疑者だと告げ、無限は自身の疑いが晴れるまでの軟禁をおとなしく受け入れます。
これは事態が悪い方向にヒートアップしてしまうのを防ぐためにも必要なこと。しかし無限の弟子である小黒と鹿野にとって、師匠が無実の罪を着せられそうになっているのですから居ても立ってもいられませんよね。しかも犯人は他にいるため、このままでは人間による再度の襲撃は避けられません。そうなれば多くの妖精が死に、戦争が起こってしまいます。真相を突き止め妖精と人間との戦争を未然に防ぐため、すぐさま行動を起こす鹿野。
鹿野はまだ子どもの小黒を置いていこうとしますが、小黒は「自分も無限の弟子だ」と彼女についていきます。2人は同じ目的のために共に行動するうちに反発もありつつも徐々に心を通じ合わせていきます。
また、真相を突き止め犯人を捕まえようと行動する小黒と鹿野たちを追いながら、人間と共存を望む妖精と人間を憎む妖精との対立や、人間でありながら最強の執行人である無限に対する妖精たちの複雑な思いについても同時進行で描かれていきます。
ファンタジー要素が強く美しい結末を迎えた前作よりも、『羅小黒戦記2』では人間の兵器による戦闘がリアル寄りに描かれていますし、疑念や裏切りといったシリアスな要素が増しています。それでも小黒の可愛らしさや、微笑ましいユーモアのある表現が散りばめられていて重苦しくなりすぎず、最後まで観終わった胸には、家族や仲間たちとのつながりの温かさが残りました。
映画『羅小黒戦記2』のここが良い!
劇場で『羅小黒戦記2』を鑑賞し、前作と同じように素晴らしいと私が感激した点を、思いのままに羅列していきたいと思います。
物語導入部
『羅小黒戦記2』は、武装した人間によって妖精の館のひとつ流石会館が襲撃されたことから、物語が大きく展開していきます。人間によって次々に殺されていく妖精たち。襲撃された館の館長の大松(ダーソン)は、動じることなく襲撃を退けようと立ち向かいます。
いきなり襲撃場面で始まるため、この大松についてどんな立場でどんな能力を持っていてどれほど強いのか、全く説明はありません。しかし大勢の敵を前にして怯むことのない表情や、右腕一本(大松は左腕がないキャラクター)で銃撃を跳ね返し、決して退かない戦い方を見ているだけで、どれだけ強い妖精なのかが伝わってきます。
そのため、大松が倒されてしまったことに対する妖精の長老たちの衝撃に深く共感ができ、容赦なく銃を向けた人間への憎しみを口にする者とそれでも人間との共存を図ろうとする者との意見の対立の決着がどうなるのか見守らねば! と、一気に物語に引き込まれていくんですよね。
鹿野の描き方
『羅小黒戦記2』から登場する小黒の姉弟子の鹿野。彼女はあまり表情を変えず、愛想がありません。無限にも小黒にも素っ気ない態度で、第一印象は、小黒が感じたのと同じようにちょっとイヤな人かもという印象でした。
しかし、この鹿野がすごく良かったんですよ。明るい色の髪の毛を編んで束ね、動きやすそうな細身のパンツ姿。少し低めの声で淡々とした喋り方。なかなかの武闘派で、敵と戦うシーンではかなり激しいアクションを繰り広げています。
これが日本のアニメだったら、クールで強い戦う女性のキャラであっても、必要以上に肌の露出が多かったり、胸が大きくて動くと揺れたり、脚が極端に内股だったりと、分かりやすい女性らしさが加えられていただろうと思います。下手したら鹿野のシャワーシーンなんかもあったかもしれません。
しかし『羅小黒戦記2』では、鹿野は可愛らしさ、か弱さ、セクシーさ、母性などといった、いわゆる「女性らしい要素」を一切排除した描き方がされています。鹿野に与えられるのは「無限の弟子」という属性のみ。物語に必要のない「女性だから」という役割を求められることはなく、ただただかっこいいんです。
鹿野が軸となって物語は進んでいきますが、彼女が「女性だから◯◯」という前提で動くことがないため、鹿野の性別が男性だったとしても何ら物語に破綻は起こりません。小黒との関係も、あくまでも無限の弟子同士として、個と個での関係が築かれていきます。それが本当に本当に心から快適! まさしくストレスフリー!
『羅小黒戦記2』は小黒が主人公でありますが、鹿野が自身の心の傷を飲み込み前に進んでいく物語でもあります。鹿野に余計なノイズを加えられていないことで物語に集中することができたし、鹿野の胸の中で起こる変化をしっかりと見届けることができたのだと思っています。
妖精と人の距離感
妖精たちのいるファンタジーな世界が舞台ですが、妖精と人間の距離はとても近く、人間の技術を妖精もけっこう使っています。
妖精会館は、自然豊かな場所にあるものもあれば、人が溢れる都会の高層ビルの中に入っているものもあり、そこで働いている職員たちはパソコンを使っています。また襲撃犯の中に無限がいたという証拠の画像(防犯カメラの画像?)をタブレット端末で表示して見せたりもしますし、無限は軟禁された哪吒様(ナタ様。中国の道教の神様でエライ人なので「様」を付けてます)の家で、コントローラーを握り締めて格闘ゲームをしてたりします。ちなみに無限のスマホはアップルならぬバナナ。
妖精たちが当然のようにデジタルデバイスを使いこなしているのってなかなか面白いですよね。人間は嫌いだという妖精でも、その技術力は認めて取り入れているということなのでしょう。今やスマホは生活するために必須のものとなっていますが、妖精たちの間でもそうなのかもしれません。このような描写によって、妖精は人間の隣人として存在しているのだということが伝わってきます。
細かい描写
『羅小黒戦記2』を観ていて、細かい部分の描写にまで気を抜いていないなと感じる場面が多々ありました。
例えば、小黒と鹿野を尾行している甲と乙。ケガをした甲を乙が治療してあげる描写があります。そこで、甲は「もう大丈夫」というように乙の膝をトントンと叩いていているんです。兄弟弟子である彼らの仲の良さを感じます。
甲と乙の師匠は、長老の1人で無限に厳しい態度を取る池年(チーネン)。彼は敵地に乗り込んでいく場面で、右手だけで攻撃しているんです。左腕のない大松を想起させます。大松が人間に殺されたことに、池年がどれほど深い悲しみと強い憤りを抱いているかがグイグイ伝わってくる描写です。
また、無限の姿を見て師匠の方が強いということを言った弟子を一級執行人の鏡雲(ジンユン)がたしなめるシーンが序盤にあります。しかし彼は、物語後半で無限と戦う場面で、堪えきれなくなったように「自分も」という感じで参戦し、あっけなく退けられてしまいます。この描写によって「最強と言われる無限の強さを疑うつもりはないけれど、どれほど強いのかを確かめてみたい」という妖精たちの人間である無限に対する複雑な気持ちが分かりますし、彼が無限の強さが圧倒的だと納得する様子を見て、観ている私たちも無限の強さを再認識することになるんですよね。
他にも、無限が料理の味見をした次の場面でテイクアウトしたハンバーガーを食べていたり、藩靖(パンジン)と政治家と思われる人物との会談に同席していた秘書が藩靖がいなくなった直後真顔になっていたり、飛行機に乗った乙が一生懸命説明所を読んでいたり、サンダル履きの無限の足の踏ん張る感じとか、池年が地面に降り立つ時のズシリと重力が伝わる感じとか、中国茶を飲む所作とか、ホントに細かいところまで気を配って描写しているんです。
無限の扱い方
人間でありながら妖精館の最強の執行人と謳われる無限。前作では無限が現場に出てきて事態を解決していましたが、今作では軟禁状態に。無限は無敵なので敵と対峙すればすぐに倒してしまって話が終わってしまいます。無限の登場はできるだけ遅いほうがいいわけです。
またこの作品は小黒の成長物語でもありますので、小黒と一緒に成長を遂げるキャラクターがいた方が物語が膨らみます。無限と小黒の間には、師匠と弟子としての信頼関係が出来上がりましたし、400年以上生きている無限の人格はもう完成されているため大きな変化は見込めません。ということで、師匠の無限を助けるために弟子2人が頑張るという展開になったのでしょう。
この無限の扱いによって、彼がどれだけ師匠として弟子に慕われているのか分かると同時に、無限の尋常じゃない強さを後半で見せつけるための溜めを置くことができているんですよね。
良き隣人として共に生きる
そろそろ有耶無耶にされ始めたのかもしれないですが、11月7日に衆議院予算委員会での高市首相の発言を発端に、中国との関係がギクシャクしてしまっていますよね。いろんな媒体で取り上げられているので、政治や世界情勢に特別関心が無くても嫌でも情報が入ってきます。何か仕掛けられたわけでもないのに勝手に虎の尾を踏みにいっちゃってブチ切れられているという状況で、一体何やってんだろうなーと、いろんな意味でグッタリでした。
『羅小黒戦記2』は中国のアニメ作品ということで、純粋にただエンタメとして楽しみたかったのですが、タイミング的に作品を観ながらどうしても日中関係のことが頭に思い浮かんできてしまってたんですよね。
『羅小黒戦記2』の中では、妖精と人間の対立、そして妖精同士の考えの違いによる対立が描かれ、それを大きな争いにはさせまいとする姿が描かれているんです。
人間が繁栄して住む場所を広げていくにつれて、妖精たちは住処を失い追いやられてきました。人間との共存というのは、人間に妖精の存在を認めさせ生き延びるための手段でもあります。人間による襲撃に対し、怒りに任せて妖精たちが反撃に出れば全面戦争になってしまいます。そうなれば、さらに多くの仲間が犠牲になってしまうでしょう。それを避けるために妖精会館の総館長の雨笛(ユーディ)は冷静に対処していきます。
また、鹿野には人間の戦争に巻き込まれて、前の師匠や仲間たちを殺されてしまった過去があります。人間のことは好きではないどころか、彼女にとって憎しみの対象です。鹿野は墜落しそうになる飛行機を、小黒、甲、乙と協力して不時着させて乗客たちを救いますが、乗客たちが怪我をしてないかなど一切確認せずにその場を離れます。彼女は飛行機を敵が襲ってくるだろうと予測済みでした。その飛行機にたまたま乗り合わせただけの人たちだから助けたにすぎません。
人間にも好きな人がいる小黒は、目的のために人間の命を軽視するような行動を取る鹿野に反発を覚え対立します。しかし、このことをきっかけに小黒は鹿野の過去に触れることになります。彼女の辛い過去を知った小黒は、同じ考えではないけれど彼女と一緒に戦おうと決めます。
物語の中で、小黒と鹿野が人間と妖精の戦争が起きた時にどちらの味方をするかと話す場面があります。正しい方に味方するという小黒。しかし彼と同じく人間の無限を師匠に持つ妖精ですが、鹿野は妖精の側につくとキッパリ言い切ります。それぞれの過去。それぞれの考え。人間への憎しみは消えない、それでも鹿野は、人間と妖精の戦争を防ごうと命懸けで戦っていたんです。
たとえ好きにはなれないからといって、たとえ分かり合えないからといって、わざわざ煽って波風立てたりする必要なんて微塵もありません。同じ世界を生きる者同士、憎しみをぶつけ合って争ったり頭を押さえて屈服させたりという事態にならないよう話し合い、互いに穏やかな良き隣人であろうとすることはできます。それが「共生」なんです。
それでも共に生きていこう
『羅小黒戦記2』を観て、小黒たちにそう語りかけられていたなと感じています。
【追記】風息を探して
『羅小黒戦記2』のエンドロール、声の出演に前作に出てきた風息の名前があるんですよ。字幕版ではセリフの前に名前が書かれて、どこで彼の声が聞こえるか分かるようなんですが、日本語吹き替え版を観ている私は全然分からないでいます。ここだよと教えられて2回目観に行きましたがやはり分からず……。ということで、3回目の鑑賞に行きたいと思ってます。
