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『ファイアーエムブレム無双 風花雪月』について語りたい【11】風花雪月無双は何を描いたか

皆さんは『ファイアーエムブレム無双 風花雪月』というゲームをプレイしたことはありますか? このゲームは『ファイアーエムブレム 風花雪月』(以下『風花雪月』本編)の「もうひとつの物語」と銘打つ無双ゲームです

ということで、今回は『ファイアーエムブレム無双 風花雪月』(以下『風花雪月 無双』)の功罪と仰々しく称して、良かった点と残念だった点についてに個人的な思い入れを混ぜつつ、このゲームの総括を語りたいと思います。

風花雪月無双オープニング画面

風花雪月無双オープニング画面

 

残念だった点いろいろ

言いたいことがホントにいろいろたくさんあるので、まずは本作『風花雪月 無双』の残念だった点から挙げて語っていきたいと思います。

 

主人公が大事にされていない

『風花雪月』本編の主人公ベレト(ベレス)を脇に回し、『風花雪月 無双』ではシェズというキャラクターを主人公にしています。でもせっかくの新主人公なのにシェズがあまり大事にされてないんじゃないの? って度々感じていました。

あくまでも『風花雪月 無双』は無双ゲームですし、敵を片っ端から斬りまくっていく爽快さが命。さらには『風花雪月』本編ありきのスピンオフ作品なわけですから、キャラクターを深掘りしすぎないのは当然だとは思っています。

ですが! シェズの持つ力が闇に蠢く者に似てるとやたら言ったり、シェズの育ての母親は誰かうやむやにしたり、シェズが何者でも大事な仲間だぜ的なことを級長さんたちに言わせたり、ラルヴァ(エピメニデス)に匂わせ的に語らせたり、散々そんなことやっておいて結局シェズの詳しい過去は全部プレイヤーの想像にお任せでぶん投げてしまうのは、いかがだろうかと思います。シェズの性格の良さで全部許されると思ったら、大間違いですよ。

シェズをベレト(ベレス)と対照的な存在にしようとしたのは分かりますが、級長さんたちにとって大切な仲間の1人という位置付けに留まり正体不明で終わってしまうのなら、ホントに「ただの傭兵」でも良かったんじゃないかとすら思います。主人公の謎を出すなら、ちゃんと答えを明らかにするべきだと思うんですよね。思わせぶりにした分だけ、シェズが可哀想に感じました。

 

ストーリが不満

赤焔の章は本編との印象とあまり変わらず。難しいことは承知で、もう一捻り欲しかったなという感じ。せっかくモニカちゃんも生きてることですし。

青燐の章は、自分の頭の中で思い描いたアナザーストーリーと近く、満足度は高め。正気のままちゃんと王様やっているディミトリを見たかったという人は多いんじゃないかと思います。

黄燎の章については、私自身がクロード推しということもあって、右往左往せずにガッツリ帝国と戦って欲しかったなと。以前私はこのブログで、エーデルガルトはクロードと手を組めばいい的なことを書いてはいるんですよ。なので赤焔の章で帝国と同盟が組むのは良いと思ってます。でも黄燎の章では侵略側の帝国とではなくて王国と組んで欲しかったんですよね。青燐の章の同盟主体ver.をプレイしたかったなーという気持ちです。

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戦闘中の会話なんて読めない

『風花雪月 無双』では、戦闘中にいろんなことが同時進行で起こりますよね。あっちで仲間が砦を制圧したとか、こっちで盗賊が現れたとか、新しいミッションが発生するとか、なんだかやることが多くて忙しないのがちょっと楽しい、みたいな。

なんですけど、戦闘中にキャラ同士で会話してるじゃないですか。でもキャラクターの声が聞き取れないし、テキスト表示されても全然読めないんですよね。それって私だけですかね。会話を聞き逃してもストーリの筋には影響ないんだろうと、途中から会話は臨場感を出すガヤ扱いでガン無視して進めてました。

 

基地施設の拡張が面倒くさい

シェズたちが戦闘と戦闘の合間を過ごす前哨基地には、訓練場や鍛冶場、武器屋や道具屋など戦闘を続けていくのに必要な施設があります。それらを拡張して機能を充実できますが、それが面倒くさい。全施設共通で必要な建築資材も、各施設ごとに必要な資材もそれぞれ4ランクずつあって、資材が揃ってもランクが合わず拡張できないということも度々ありました。もうちょっとシンプルな仕組みにして、カスタマイズしやすければよかったなのになと思います。

 

良かった点だっていろいろ

いろいろ不満を書きましたが、良かった点だってもちろん、いろいろあったんですよ。

 

主人公のシェズがとにかく良い

『風花雪月 無双』は、主人公のシェズがとにかく良かったなと思います。二刀流の剣士ということで戦闘で使い勝手が良く、操作していて非常に楽しいんですよね。戦闘を繰り返していく無双ゲームなので、操作性が良いのは重要だと思います。操作する時間が長ければキャラクターに愛着も湧きますし。

しかもシェズはかなり性格が良い子。我が強すぎず、すでに出来上がっている世界に新参者として加わっても違和感なく溶け込めていました。ベレト(ベレス)ではなく新しく主人公を迎えるということで拒否反応を示していた方も多々いたかと思いますが、実際プレイしてみてシェズに嫌な感情を抱くことは無かったんじゃないでしょうか。

爽快さを味わうゲームの主人公としてふさわしく、シェズはグダグダ思い悩んだりしないさっぱりした性格。そして戦闘以外の場面で仲間たちと会話する時にはちょっとおっとりした部分も感じさせ、全然がっついた感じはしません。わりと思ったことをすぐ口にしてはいますが、言葉の選び方のおかげかキツくならず、むしろ愛嬌に変換されてしまう絶妙なさじ加減。シェズのキャラクターに救われた部分は多いんじゃないかと思います。

 

『風花雪月』本編の補完的要素

アナザーストーリーということで、『風花雪月 無双』では『風花雪月』本編ではできなかったキャラ同士の関係の深掘りがされたり、名前しか出てこないキャラクターが登場するなど、本編の補完的な要素がたくさんありましたよね。

『風花雪月』本編では死んでしまっていたモニカが赤焔の章では生きて共に戦えるようになっていたり、盗賊に成り果てて各学級の生徒たちに討伐されていたマイクランが、青燐の章で実際はどんな人物だったか知れてうれしかったですし、黄燎の章でパルミラにいる兄弟とクロードの関係性を知って「フォドラに来たくなるのもわかるなー」と納得したりもしていました。

『風花雪月 無双』をプレイしながら、『風花雪月』本編で得た情報が更新されていく感じ、スピンオフ作品ならではの楽しみだなと思います。

 

「作業」の時間が少ない

『風花雪月』本編は世界観に深みを出すのに会話の発生が必要とはいえ、2周目以降は士官学校内をグルグル回らねばならないことが若干面倒だと感じるていました。第2部に入ってからもガルグ=マクが拠点のため変化に乏しく、楽しみながらも少々飽きを感じていたのは事実。生徒たちの落とし物が多すぎて、最後は先生が全部没収することにしてましたもん。

『風花雪月 無双』では、士官学校が前哨基地に置き換わっています。仲間と交流したり訓練してスキルを上げたり武器の鍛錬をしたりとやること自体は多いのですが、次の戦闘に向けての準備をしているのだと『風花雪月』本編よりも感じられます。カレンダーで管理されないので、サクッと訓練して食事作って武器を鍛錬して、さあ戦闘! という感じで、基地内でルーティーンの「作業」をこなさなければという感覚を感じずに済みました。

 

遠乗りの会話が良い

『風花雪月』本編のお茶会に替わって取り入れられた遠乗り、なかなか楽しいですよね。遠乗りでは行き先も森や湖などから選べるようになっていましたし、会話も投げかけられた言葉に対する返答を選ぶだけでなく、こちらから質問できるようにもなっていました。

とても良いと思ったのが、間違って選んだ選択肢を教えてくれるようになっていたこと。これで何度やっても上手くいかないということが無くなります。やっぱりせっかく遠乗りしたからには気分よく終わりたいですからね。

 

キャラクターたちの戦う姿が見られる

『風花雪月 無双』は実際にキャラクターを操作して戦うアクションゲーム。そのため、キャラクターたちが技を繰り出しどのように敵を倒していくのかを見ることができます。戦う姿にそのキャラクターの『風花雪月』本編では数値でばかり見てしまっていたキャラクターの闘いっぷりを目の当たりにして、実際はこんなふうに戦っていたのか! と感激しました。

 

『風花雪月 無双』が描いたものと評価

『ファイアーエムブレム 風花雪月』というゲームは、その世界にどっぷりと浸かり、キャラクターたちへの思い入れが強くなるほど楽しめる作品だったなと思っています。それは、主人公は自分自身が世界を統べることを目指すのではなく自分が選んだ者の理想を叶える役割であるため、ベレト(ベレス)と同等かそれ以上に3人の級長たちにも気持ちが大いに入り込んだ状態になり、彼らの望みを叶えようと命をかけ戦うベレト(ベレス)の行動とプレイヤーの気持ちがうまくリンクしたからなのではないでしょうか。

ベレト(ベレス)が3人のうち誰の学級を選ぶかで、フォドラを統一する国が決まります。エーデルガルト、ディミトリ、クロードの3人が理想として掲げる世界像はそれぞれに共感ができるものではありますが、限りなく神に近い存在であるベレト(ベレス)が誰の理想の世界を是として選び取ったかで、未来のフォドラがどのような姿となるのかが決まるわけです。つまり、『風花雪月』本編は選ばれし者が平和をもたらし世界を統べる物語だったんですよね。

では『風花雪月 無双』はどうだったか。ベレト(ベレス)は凄腕の傭兵にとどまり、その代わりとなる存在のシェズには元首となった級長たちを理想の実現に導くほどの力はありません。『風花雪月 無双』の超越した存在のいない世界で繰り広げられるのは、ファンタジー色が薄められた3人の級長たちが自力で理想の実現を目指す物語なんです。

そのため、『風花雪月』本編でベレト(ベレス)が味方についた陣営は戦に勝ち続けて最終的にフォドラを統一するに至ることによって気づかずにいられた級長たち3人の目指すものの負の側面が『風花雪月 無双』ではあらわにされていきます

エーデルガルトは、紋章の有無や身分にかかわらず能力のある者が持てる能力を発揮できる社会を目指しています。しかし、それは一方で能力を持たない者を切り捨てるということでもあるのだということが、ヴァーリ伯に対する雑で冷たい扱いに端的に現れています。

ディミトリは「民を守る」としっかり口にしていますが、帝国に対峙する際に真っ先にダスカーの悲劇への復讐が口を突いて出てきてしまうあたり、「民」という言葉の対象となるのは王国の国民ではなく、彼に親しい者たちや見知っている者たち(ダスカーの民を含む)であるということが感じ取れます。

クロードの掲げる民族や信仰を超えて共に生きられる世界という理想は、スケールが壮大で非常に聴こえは良いのですがきれいごとに過ぎず、フォドラしか知らない者たちはクロードのその考え方についていけないですし、自分の国すらまとめられないのに説得力もありません。

超越したベレト(ベレス)という存在がいないことで見えてくる、3人の級長たちの元首として足りていない部分。厳しいですよね。容赦ないです。

多くの方は、この『風花雪月 無双』の掲げる「もうひとつの物語」が想像していたものと違うと思ったんじゃないかと思います。私自身は自分の理想の世界を語り続け軽やかに実現させる翠風の章のクロードが好きなので、捨てばちになりながら泥臭く戦う彼の姿はショックでした。しかし同時に人間臭さを感じてグッときたりもしました。3人の級長たちの持つ負の側面を知って、『風花雪月』本編の奇跡のような物語が一層好きにもなりました。

『風花雪月 無双』は『ファイアーエムブレム 風花雪月』のスピンオフとしてキャラクターを操作して敵を倒すのがただ楽しいゲームにもできたはずだというのにそれをせず、あえてアナザーストーリーという形でプレイヤーにフォドラ3国が繰り広げる戦争を見つめ直させる物語を繰り広げました。そこには『風花雪月』本編では描かれなかったもの確かにがありました。『風花雪月 無双』をプレイして制作陣にここまでのものを作らせるに至った『ファイアエムブレム 風花雪月』という作品の奥深さを改めて感じましたし、とてもチャレンジングなこの作品が世に出されたことは素直にすごいことだと思っています。

 

『ファイアーエムブレム無双 風花雪月』の任天堂の公式ホームページはこちらです。

www.gamecity.ne.jp

 

本編である『ファイアーエムブレム 風花雪月』についても21本の記事を書いて語っています。興味を持っていただいた方はこちらからどうぞ。

isanamaru.hatenablog.com

『ファイアーエムブレム無双 風花雪月』について語りたい【10】シェズは何者だったか

皆さんは『ファイアーエムブレム無双 風花雪月』(以下『風花雪月 無双』)というゲームをプレイしたことはありますか? このゲームは『ファイアーエムブレム 風花雪月』(以下『風花雪月』本編)の「もうひとつの物語」と銘打つ無双ゲーム。『風花雪月』本編での主人公ベレト(ベレス)に代わり、シェズが新たな主人公となっています。

ということで、今回は『風花雪月 無双』の主人公であるシェズと意識を共にする謎の存在ラルヴァについて、個人的な思い入れを混ぜつつ語りたいと思います。

シェズ

覚醒したシェズ

 

かりそめの主人公シェズ

『風花雪月』本編の主人公であるベレト(ベレス)と『風花雪月 無双』の主人公シェズは非常に対照的に描かれていきます。

ベレト(ベレス)はセイロス騎士団の元団長ジェラルトを父に持ち、灰色の悪魔という二つ名で呼ばれるほどの凄腕の傭兵。しかも女神の器として胸には紋章石が埋め込まれ、そのため女神ソティスと意識を共にしています。3人の級長をはじめとする士官学校の生徒たちより少し年上(推定21歳)で、セイロス教団の大司教レアから士官学校の教師として招かれます。

一方『風花雪月 無双』の主人公であるシェズは、育ててくれた母親を幼い頃に亡くし天涯孤独の身。傭兵を生業としていますが、灰色の悪魔に圧倒的な力量の差で敗戦を喫してしまいます。その際に不思議な謎の力を目覚めさせてシェズの命を救った謎の存在ラルヴァと意識を共にしています。3人の級長たちをはじめとする士官学校の生徒たちとは同世代。レアから士官学校の生徒として受け入れられます。

これだけを見ても級長たちをフォドラ統一に導く存在であったベレト(ベレス)に対して、シェズは級長たちと共に戦っていくことに重きを置いた存在であることが感じられますよね。

そして3人の級長たちと主人公が出会う章は、『風花雪月』本編では「必然の出会い」、『風花雪月 無双』では「偶然の出会い」となっています。本来であれば、シェズは灰色の悪魔ベレト(ベレス)に斬り捨てられていた名も無い傭兵の1人でしかなかったはずの存在。シェズの存在こそが風花雪月の世界ではイレギュラーな要素だということなんです。

 

各章でのシェズの役割

3人の級長たちと出会ったシェズが、それぞれの章でどのような役割を担っているのかを見ていきたいと思います。

 

赤焔の章でのシェズ

ヒューベルトと長年温め続けてきた計画を実行すべくエーデルガルトが挙兵し戦争を始める赤焔の章

貴重な戦力とみなされたシェズは、傭兵団の指揮を執るよう任命されます。ヒューベルトはあくまでもエーデルガルトの従者として振る舞いますが、傭兵として凝り固まった身分制度には縛られない立場で主従の意識が薄いシェズとエーデルガルトとの関係は、まるでバディのよう。自軍の勝利にハイタッチを交わす2人を見ていると、戦争を起こす側の物語だというのに爽やかささえ感じてしまいます。

 

青燐の章でのシェズ

挙兵した帝国に対して、王国がセイロス教団を受け入れて対決姿勢を明確に示す青燐の章。私兵団の団長に任じられたシェズも、帝国と戦うことになります。

ディミトリの周りにいるのは、王に忠誠を誓い命をかけて尽くす臣下たち。親しかった者たちが皆臣下となってしまったディミトリにとって、王国の身分のしがらみに捉われない存在であるシェズは唯一の純粋な友人となります。

3つの章の中で一番、シェズが元首となった級長さんと気持ちの距離を近づけられているのは、青燐の章ではないかと思います。

 

黄燎の章のシェズ

黄燎の章では、シェズはパルミラからの侵攻を受け同盟領に戻るクロードたちと行動を共にします。その2年後、帝国の挙兵を機に呼び寄せられ、同盟軍の一員に。

諸侯たちは元首に頼らず自分の領地をしっかり守ろうという自立心が強め。同盟全体を守ろうとするクロードにとって、簡単には言うことを聞いてくれない彼らは厄介な存在です。「だったら自分だけで全部やった方がいい」と1人で突っ走るクロードに対して、シェズは金鹿の生徒たちと同じ目線で怒ります。

黄燎の章のシェズは他の章と比べると、元首となった級長を同じ学級だった仲間たちと共に1人の将として支えていくという面が強く感じられます。

 

シェズと出会って

3人の級長たちが森で出会ったのがシェズだったことで、各章に起こる変化はそれぞれ違います。

赤焔の章では師と仰ぐベレト(ベレス)がいないことで、エーデルガルトをはじめとする帝国の生徒たちはより一層団結して突き進んでいるように感じます。青燐の章での王国の生徒たちは、導いてくれる存在がいないため、ディミトリは国王としての、その他の生徒は騎士としての自覚をより早く持つようになっています。『風花雪月』本編の中で主人公とクロードの間に師弟を超えたバディ感を強く感じさせた同盟ルートですが、黄燎の章ではそれと対照的にシェズは同盟軍の将の1人としてクロードを支えていきます。

こうして見てみると、『風花雪月 無双』の世界の級長たちは皆、自分の力で指揮を執り戦争を戦っているんだなと強く感じられるんですよね。この世界で戦い抜く級長たちの姿を一番間近で見守り、私たちに伝えてくれる存在、それがシェズなのだなと思います。

 

シェズの不自然さ

レスター諸侯同盟にあるコーデリア領の山村で育ての母と暮らしていたシェズ。産みの両親の記憶はありません。育ての母は魔法が使え、シェズに読み書きなどを教えてくれました。

育ての母が亡くなり、シェズは生きていくため傭兵を生業とします。傭兵団を転々とし、最後に所属していたベルラン傭兵団の仲間たちは皆ジェラルト傭兵団に討たれ、シェズ自身も灰色の悪魔ベレト(ベレス)にあと一歩のところまで追い詰められますが、そこで自分に語りかける何者かの声を聴きます。その声によってシェズは不思議な力に目覚め、生き延びるのです。シェズはラルヴァと名乗るその声の主と意識を共にしていくことになります。

『風花雪月』本編の主人公ベレト(ベレス)も女神ソティスと意識を共にしていることもあってあまり気になりませんが、シェズとラルヴァには謎が多く、かなり不自然な部分が存在しているんです。

 

サバサバにも程度というものが

シェズってとにかくサバサバしていて、変に引きずることもない非常にさっぱりとした気持ちのいい性格をしているなと思います。それは裏返せば、あまり深くは考えない子だってことでもあります。

士官学校で書庫番のトマシュに姿を変えていたソロンが真の姿を現す様子を見たシェズは、自分が得た不思議な力は闇に蠢く者と同じものなのでは? と思ったり、捨て子だったため出自ははっきりしないと言ったりはしますが、そのことで思い悩んでいる様子はありません。ならば育ての母親はどんな人かと調べ始めると、実在したのか怪しくなるほどに手がかりが無く調査は行き詰まってしまいますが、シェズはそれで良しとしてしまうので、これ以上追及できません。なんだかシェズには自分のことを考えないようストッパーがかけられているようにさえ感じます。

また、シェズって感情豊かなわりに生死について淡々とし過ぎなんですよね。ジェラルト傭兵団と灰色の悪魔ベレト(ベレス)によって、長く一緒にいたというベルラン傭兵団の仲間たちを殺され自分も死にかけ、その後雪辱を果たすべく鍛錬していたシェズ。しかし、ラルヴァが散々灰色の悪魔を倒せ倒せと煽ってくるというのに、シェズはジェラルト傭兵団が仲間になったら心強いと平然と口にします。シェズが鍛錬していたのは恨みを晴らすとか仲間の仇を取るというようなウェットなものではなく、純粋にベレト(ベレス)との勝負に勝ちたいというモチベーションによるもの。殺す殺されるというよりもスポーツの試合みたいなノリだったのかと驚かされるんです。

シェズは傭兵として何度も仲間と死に別れも経験してきたでしょう。とはいえ、割り切り良すぎじゃないですかね。級長さんたちと出会うまでに何度か死にかけたっぽいことがラルヴァとの会話で出てきますが、自分自身も含めて命というものへの執着があまりに低い気がします。

 

よくわからないスキル

シェズの個人スキルに「生への執念」というものがあります。ネーミングから生命の危機に瀕した時に発揮されるスキルだと思いました。ですが、「HP90%以上の時に無双ゲージ増加量が上昇」という内容なんですよ。執念燃やすほどの状況じゃないじゃんって感じですよね。

しかもシェズは最上級兵種アスラになることで、さらに驚かされるスキルを習得します。その名は「造られしもの」。 いきなり説明無しで習得するこのスキルに気づいた時には大混乱でした。

 

ラルヴァという存在

ベレト(ベレス)は、セイロス教団の大司教であるレアにより、女神ソティスの器とすべく心臓の代わりに紋章石を埋め込まれたため女神ソティスと意識を共にしていました。

では、シェズと意識を共にしているラルヴァは何者なのか。度々灰色の悪魔を倒すようにシェズを煽るだけでは終わらず、ラルヴァはシェズの体を乗っ取り自軍で共に戦うこととなったベレト(ベレス)に斬りかかりさえします。なぜそのようなことをするのか。それはラルヴァがアガルタの民であるから、なんですよね。

アガルタの民は、人間の肉体を作り出して魂の器とする神にも匹敵するような高い科学的な技術を持っていました。しかしそのために女神と対立、戦いに敗れてしまった彼らは復讐の時が来るのを地下に潜んで待っていたのです。闇に蠢く者のタレスなども同じくアガルタの民ですが、ラルヴァは彼らとは別の方法で女神とその眷属を討とうとしていたのだと考えられます。

ラルヴァの本当の名前はエピメニデス。長引く女神との戦いに、長寿の民とはいえ肉体の寿命が尽きてしまうことを恐れ、レアがベレト(ベレス)の体を女神の器としようとしたように、その高い科学的技術によってエピメニデスが自身の魂を移す器としての身体を人工的に造り出した、それがシェズです。しかし攻撃をうけたか自然災害などの事故が起きたのか、シェズの培養槽が壊れて警報音が鳴り響くような事態に陥ってしまいます。そこでエピメニデスの肉体は死亡したのでしょう。

造られた人間という点で、シェズは『風花雪月』本編での主人公の母親シトリーと同じような存在です。シトリーに人格があったように、造られた肉体にも魂が宿りますが、それは肉体が器として使われた時に消滅するのだと思われます。エピメニデスは造った肉体に自身の魂を完全に移し替えられないまま死んでしまったため、シェズの人格は失われず、エピメニデスの魂の断片がラルヴァとして残ったのではないでしょうか。

 

シェズの記憶は本物か

エピメニデスの語る不測の事態が何によるものか、シェズの培養のどの段階で起きたのか、その詳細は分かりません。またシェズが造られた人間だということから、語られる過去の真偽はとても怪しいと言わざるを得ません。

シェズの育ての母は誰なんだという疑問が解決されないこともあり、個人的には、シェズの言う育ての母なる人は実際には存在しなかったのではないかと思ってたりします。シェズ個人が培養槽から外の世界に出て見聞きし経験して学んだことと、ラルヴァを内包することによって得たエピメニデスの記憶の断片を合わせた形で偽りの過去の記憶を作り出したのではないのか。自分で考えておいてシェズが可哀想になっちゃってますが。

 

真実は藪の中

どこで生まれ、どのような過去があったのか、なぜ平民の水準以上の教養があるのか、覚醒した時に何も無いところからどうやって剣をつくりだしているのか、なぜ瞬間移動の術が使えるのか。シェズの正体に関する事柄について、エピメニデスの語る言葉だけでは何も明確にはなりません。しかもシェズ自身が自分の正体について追及したいとは思っていないことから、これ以上の真実が提示される事もありません。不思議だな、謎だなという状態のまま放置されてしまいます。なぜならフォドラの地は女神の力によって作られた剣と魔法の世界です。ここには科学的技術というものなど存在していないのですから。

ただ唯一確実なのは、ラルヴァの存在が消えてしまって初めて、シェズが自分自身としての人生を生き始めることになったということです。ラルヴァを感じられなくなってしまっても、シェズの周りには力強い仲間たちがいてくれるのです。

 

次回は『ファイアーエムブレム無双 風花雪月』の総括を良かった点悪かった点を挙げ連ねつつ語っています。興味を持っていただいた方はこちらからどうぞ。

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『ファイアーエムブレム無双 風花雪月』について語りたい【9】黄燎の章に感じること

皆さんは『ファイアーエムブレム無双 風花雪月』(以下『風花雪月 無双』)というゲームをプレイしたことはありますか? 本作は『風花雪月』本編を元に、一度は大聖堂に併設された士官学校に学友として集った生徒たちが、それぞれの国の未来をかけて三つ巴でぶつかり合うことになる無双ゲームです。

ということで、今回は『風花雪月 無双』レスター諸侯同盟の盟主クロードの物語となる黄燎の章について感じたことを、個人的な思い入れを混ぜつつ語りたいと思います。

 

弓を構えるクロード

「きょうだい」に向け弓を構えるクロード

 

 

黄燎の章をプレイして

士官学校に入ることとなったシェズが、金鹿の学級を選ぶと進むこととなる黄燎の章レスター諸侯同盟出身の生徒たちの学級なので、シェズも同盟側で戦うことになります。

『風花雪月 無双』は『風花雪月』本編では成されなかった「if」の世界を描いていますが、黄燎の章での「if」は、「クロードがきょうだいと呼べるような存在と出会えなかったら」ということに尽きると思います。『風花雪月』本編でのいつもどこか余裕をかましているようなクロードとは真逆の苦しそうな姿が見られます。

『風花雪月』本編での同盟ルートは、最終的に国王を失った王国を吸収し帝国を倒したうえ、フォドラの黒歴史も撃ち払い、パルミラとフォドラに開かれた関係を築くというまさに大団円を迎えます。しかし『風花雪月 無双』では、何をしようにもままならず茨の道を進み続けるクロードに、プレイしているこちらの胃がキリキリ痛くなっていました。

シェズが金鹿の学級に加わり、盗賊の討伐を課題を出されたクロードたち。盗賊の砦には闇に蠢く者に誘拐されていた黒鷲の学級の生徒のモニカが囚われていました。救出された彼女の証言によって、闇に蠢く者ソロンが書庫番のトマシュに成り代わりガルク=マクに潜入していたことが発覚。ソロンは真の姿を現し逃亡してしまいます。

これをきっかけにするように、帝国でも王国でも内部でゴタゴタが起きて、エーデルガルトもディミトリもそれぞれ国に帰ることになり、残された同盟もパルミラの大軍が攻めてきたことにより、同じく国に戻らねばならない状況になります。帝国、王国、同盟とそれぞれ問題が勃発して勉強どころではなく、士官学校は休止に。

帝国では皇帝に即位したエーデルガルトから傭兵部隊の、王国では国王となったディミトリから私兵団のそれぞれ隊長に任命される高待遇を受けるシェズですが、この黄燎の章での彼はクロードに期待させるようなことを言われた状態のまま、その後2年間放置されてしまいます。シェズはよく律儀に待っていてくれましたよ。

レスター諸侯同盟は帝国や王国のように大きな権力を持つ元首がトップに立っているわけではなく、盟主は諸侯たちのリーダー的な立ち位置に過ぎません。クロードは紋章を持っておりリーガン家の血を引くのは確かであるものの、どこからか連れてこられたよく分からん若僧が盟主を継いで自分たちを仕切るとなれば、諸侯のみなさんは面白くはないですよね。クロードは盟主となってから同盟をまとめることで精一杯で、シェズのことを思い出すこともできないような状態だったのかもしれません。放置はひどいけれど、仕方なかったのかもなとも思います。

帝国が戦争を起こしたことを受けて、シェズを呼び寄せたクロード。盟主として同盟を守るために頑張るぞとなるわけですが、同盟という形をとる国であるが故に、自分の領地を第一に考える諸侯を納得させる落とし所を探るのに時間と精神的エネルギーを割かれてしまいます。この戦争という非常時にトップダウンで迅速な決断ができないのは痛いですよね。

しかもパルミラが再び攻め込んできたことで、クロードは実兄であるシャハドを討たなければならなくなります。本編の「紅花の章」「蒼月の章」で展開された兄弟殺しが黄燎の章でも展開されてしまうんです。クロードが闇堕ちしたりパルミラに逃げ帰ったりしてもおかしくない状況ですよ。しかしクロードはそれでもフォドラに残り、自分の考え得る限りの手を打っていきます。

その1つが同盟から連邦国へと国に形を変えること。厳密に言うと、黄燎の章は同盟ルートじゃなくなっちゃうんですね。レスター連邦国の初代国王に立ったことでクロードは自分の考えを実行しやすくなりますが、同時に周りに相談が足らないまま進め過ぎて仲間たちから反発を食らったりもします。本当に試行錯誤しながら進んでいくんです。

パルミラからフォドラに来て数年しか経っていないというのに、祖国でもない国を守るために孤立無縁で命を張ることになったクロード。『風花雪月』本編より若くて士官学校が休止になり得られるはずだった経験も知見も乏しく、頼れる腹心もいないクロードは、最後までレスター存続のためにがむしゃらに策を練っていきます。そんな泥臭いクロードの姿に胸が熱くなりました。

 

クロードが得られなかったもの

『風花雪月 無双』黄燎の章をプレイしてしみじみ感じたのは、盟主として人の上に立つこととなるクロードにとって、士官学校で見聞きし様々な経験をすることがとても重要だということ、そして何よりクロードが自分の夢を叶えるためにはベレト(ベレス)の存在が不可欠だということでした。

 

1.知見と経験

実はパルミラ王の血を引く王族であるクロード。もちろん生まれも育ちもパルミラですし、リーガン公に後継ぎとして呼び寄せられただけなので、フォドラについての深い理解はありません。

『風花雪月』本編ではクロードに士官学校で同盟の貴族と平民のクラスメイトたちと仲間として過ごすことになるだけでなく、帝国や王国の生徒たちに加えて自分と同じパルミラ人であるツィリルをはじめ、さまざまな異国からフォドラに来ている人たちとも交流を持ちます。そのことにより彼が望んでいる多様であることを認め合う世界が具体性を持つわけです。

しかし『風花雪月 無双』では士官学校での期間があまりに短く、金鹿の学級の生徒たちとの交流は深まりきらないままで、他国の生徒たちとは顔見知り程度。クロードの中での帝国や王国、そしてセイロス教への理解が深まっていません。

レスターはそもそもの結びつきが緩いため、戦争が長引けば帝国側に寝返る者が続出て瓦解してしまう可能性があります。それを避けるためにも、クロードは最小限の被害でとにかく早く戦争を終わらせたいと考えています。その考えは支持できるのですが、本作のクロードは戦争の火種であるセイロス教大司教であるレアの存在をピンポイントで消してさえしまえば戦争を続ける意味もなくなり、交渉で三国丸く収まるだろうと考えている様子。そんな簡単にいくわけなくない? って思いますよね。クロードのこの考えの甘さは、知見や経験が少ない分視野が狭いままであることの現れだなと感じます。

 

2.「きょうだい」と呼べる存在

エーデルガルトは伯父であるアランデルが闇に蠢く者になり代わられており、ディミトリは伯父のリュファスが内乱を起こすなど身内が問題を抱えていたわけですが、それはクロードも同じ。なぜなら、同盟に攻め込んで来ているパルミラはクロードの母国。しかもその大軍を率いているのは、クロードの異母兄であるシャハド。モロに身内ですね。

パルミラはどうやら王位継承権を持つ者が何人かいる様子で、シャハドは自分の王位継承を優位にするため、フォドラ侵攻で功を立てようとしていたのです。

攻め入った先のフォドラの地で、パルミラの王族でありながらレスターの盟主となっている腹違いの弟クロードを見つけたシャハドは、武功と王位を手にするため彼に襲いかかります。不仲であっても兄弟に変わりはありません。クロードは苦悩の末にシャハドを自分の手で討ち取ります。この場面での余裕の無いクロードの表情はかなり衝撃的です。

 

クロードの悲しげな表情

クロードのこんな悲しげな表情見たことないですよ…

 

クロードがシャハドを討つ場面に唯一居合わせていたシェズ。そのためシェズはクロードの苦悩を知る存在となります。クロードはそんな彼を気に入っていて頼りにしてはいますが、最後まで「きょうだい」とは呼びません。

『風花雪月』本編でクロードに「きょうだい」と呼ばれるベレト(ベレス)は炎の紋章を持ち女神ソティスと意識を共にしているという人間離れした存在。だからこそ、クロードは自分の壮大な夢を語りますし、特別な絆を結びたいと感じたわけです。若く未熟な傭兵に過ぎないシェズは、ヒルダやローレンツたちを超えるような視点は持てないため、クロードの愚痴は聞けてもそれ以上のことはできないんです。あまりに特異な存在であるベレト(ベレス)とシェズを比べるのは酷ですよね。

しかしそうであったとしても、もしも士官学校が休止とならずにいたら、もしもクロードが空白の2年間にシェズを側に置けていたら、彼らの関係性はもっと深まって「きょうだい」と呼べるようなものとなっていたかもしれないですよね。残念。

シェズやヒルダをはじめとする金鹿の生徒たちと親密度が低いままで盟主となり、同盟の生き残りのために頑張ってはいるのに空回ってしまうクロード。彼は腹を割って夢を語り共に進んでいけるような特別な存在である「きょうだい」を、『風花雪月 無双』では最後まで得ることができないんです。

 

野望は果たされるのか

黄燎の章でのクロードは、エーデルガルトやディミトリに比べると、行動が一貫していない感じがしますよね。それは実際にクロードの中での考えが二転三転しているからだと思うんです。

パルミラからフォドラに来たクロードは閉塞感を抱き、国や民族、宗教の別なく繋がり合えるようにしたいと望むようになります。かなりスケールの大きい夢で、1人の力での実現は難しいですよね。クロードはフォドラにいる自分とパルミラにいる兄弟とで協力し、それを実現しようとしていたのではないでしょうか。

しかし、異母兄のシャハドが同盟に大軍を引き連れ攻め込んできたことで、クロードは兄を討ち取らざるを得なくなります。それは同盟の盟主として当然のことですが、パルミラの王族であり血を分けた兄弟を自らの手で殺してしまったことで、パルミラに助力を求めたりパルミラに逃げるという切り札を失ってしまったわけです。シャハドを討ったクロードは、フォドラの地で生きる覚悟を決めたのだろうと思います。

だからこそ、クロードはその後レスターの存在のために、なりふり構わなくなっていきます。レスターの国の形を変え、敵国と手を結び、戦争の口実となるレアを討ち、交渉で最小限の犠牲でどうにか痛み分けの形に持ち込ませようとするクロード。その交渉が上手くいっても、クロードが本当にやりたかったことが実現されないままなのに良しとしていいのか? となりますし、交渉が上手くいかなかった場合は、レスターの存続が危うくなってしまいます。どちらに転んでも結末に納得はできないように思います。

この黄燎の章は俺たちの戦いはこれからだ! というような、いわゆる「打ち切りエンド」で終了します。プレイして愕然とさせられたわけですが、これ以上描けないと制作陣が逃げたなとガッカリすると同時に、結末をはっきりさせなかったことにホッとしていたりもしています。

 

次回は本作『ファイアーエムブレム無双 風花雪月』の主人公であるシェズとラルヴァについて語っていきたいと思います。

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『ファイアーエムブレム無双 風花雪月』について語りたい【8】青燐の章に感じること

皆さんは『ファイアーエムブレム無双 風花雪月』(以下『風花雪月 無双』)というゲームをプレイしたことはありますか?  『風花雪月』本編を元に、大聖堂に併設された士官学校に一度は学友として集った生徒たちが、それぞれの信念のもとに国の未来をかけて三つ巴でぶつかり合うことになる無双ゲームです。

ということで、今回は『風花雪月 無双』ファーガス神聖王国の国王ディミトリの物語となる青燐の章について感じたことを、個人的な思い入れを混ぜつつ語りたいと思います。

 

槍を捧げ持つドゥドゥー

槍を捧げ持つドゥドゥー

 

青燐の章をプレイして

士官学校に入ることとなったシェズが、青獅子の学級を選ぶと進むこととなる青燐の章ファーガス神聖王国出身の生徒たちの学級なので、シェズも王国側で戦うことになります。

『風花雪月 無双』は本編では成されなかった「if」の世界を描いています。青燐の章での「if」は、「ディミトリが妄執にとらわれず、早く王となっていたらどうなっていたか」ということがメインにあるかなと思います。

シェズが学級に加入し、課題で討伐することとなった盗賊の砦でディミトリたちは闇に蠢く者に誘拐されてしまっていた黒鷲の学級の生徒のモニカを救出します。彼女の証言により書庫番のトマシュに成り代わって侵入していたことが発覚した闇に蠢く者ソロンは、その真の姿を現し逃亡。これをきっかけにするように、王国ではトマシュと同じように闇に蠢く者クレオブロスが姿を変えているコルネリアにそそのかされたディミトリの伯父イーハ大公リュファスによる内乱が起きてしまうんです。

王家の長子として生まれながら、紋章を持たなかったため王位に就けなかったリュファス。闇に蠢く者と手を組んでダスカーの悲劇に加担し、実弟でもある先王ランベールを暗殺したことが『風花雪月 無双』では明らかにされます。紋章による兄弟殺しはゴーティエ家だけでは無かったわけですね。

内乱を鎮めリュファスを捕縛したディミトリは、いきなりダスカーの悲劇の真相を突き付けられた形に。いつか伯父と分かり合えると信じようとしたディミトリですが、リュファスの方はランベールやディミトリを「獰猛な獣」と評し、人と分かり合えないことを本気で悲しむふりをして「気味が悪い」とすら言っているんですよね。肉親なのに絶望的に分かり合えない感じが堪らないです。

父を殺し自分の命をも狙っていたリュファスの首を自ら刎ねたディミトリ。もしかして闇落ちしてしまうのか? とハラハラしましたが、心配は無用でした。『風花雪月 無双』ではリュファス処刑後、ディミトリはすぐにファーガスの王に即位。冷静に臣下たちに指示を出していきます。『風花雪月』本編をプレイして、彼は為政者としてはちょっと優しすぎるんじゃないかと心配していたんですが、なかなか有能な王様になってました。

これにはいろいろと理由があると思うんです。まず、ダスカーの悲劇に加担した裏切り者のリュファスを自分の手で討つことができ、ここで父親の仇を打つことができましたよね。そしてダスカーの悲劇の真実をシェズをはじめ皆が知ることとなり、自分の胸の中だけに留めずに済んでいます。また、ディミトリは邪魔されることなく王位に就くことができましたし、同時に幼馴染のフェリクスが爵位を継ぎフラルダリウス公として政治面でのサポートに回ることになったことも大きいと思います。そして何より、ダスカーの悲劇に帝国も関与していることが明らかになって「帝国許すまじ」となっているところでのエーデルガルトの挙兵ですよ。侵攻から国を守るためにも、ダスカーの悲劇で多くの亡くなった命に報いるためにも、ディミトリがセイロス教団を受け入れて帝国と徹底抗戦を決めるのは当然のこと。ネガってなんていられないわけです。

『風花雪月』本編ではこれでもかというくらいにディミトリに苦難が降り注ぎ、崩壊寸前まで精神的に追い詰められる姿に胸が苦しくなったのですが、『風花雪月 無双』ではダスカーの悲劇という大きな事件を乗り越えていこうとするディミトリを、シェズや青獅子の仲間たちが同じ気持ちで支え打ち勝っていく物語となっています。『風花雪月』本編で見たくても見られなかったディミトリがここにいるという感じがして、プレイしながら気持ちが昂りました。

 

貴族の身分制度

『風花雪月 無双』青燐の章をプレイしていて強く印象に残ったのは、王国内の確固とした貴族の身分制度。

ディミトリは国王であり、国の元首として身分制度のトップに立っています。それは明確ですが、その臣下である貴族たちの序列って、あまり馴染みがないので分かりにくいですよね。貴族の爵位の格付けはおおよそ次のようになっています。

 

  1. 大公(=王族)
  2. 公爵
  3. 侯爵
  4. 辺境伯
  5. 伯爵
  6. 子爵
  7. 男爵

 

ディミトリの伯父に当たるリュファスは大公。幼馴染の3人の家はどうなのかというと、フェリクスのフラルダリウス家が公爵、シルヴァンのゴーティエ家は辺境伯、イングリットのガラテア家は伯爵。幼馴染とはいえ、彼らは爵位が違っています。

本作の第二部では父のロドリグから爵位を継いでフラルダリウス公爵となっていることもあり、フェリクスは常にディミトリのすぐ側にいて政治的な会議にも出席し意見を出していますし、ディミトリの留守を預かる立場にもなっています。フラルダリウス公の「ファーガスの盾」という異名は、国王を側で護り支える、王国の中で非常に重要な地位にあるということを表しているのでしょう。

幼馴染の間で一番年長のお兄さん的存在だったシルヴァンは実兄マイクランとのエピソードが強烈なこともあり『風花雪月』本編では印象が強いですが、『風花雪月 無双』ではちょっと後ろに引いて控えめな感じ。まだ父親がまだ家督を譲っておらず嫡子の位置に留まっていることもあると思いますが、フェリクスの父ロドリグとシルヴァンの父マティアスと王家との距離感を見ると、彼が辺境伯の爵位を継いでも公爵であるフェリクスの前に出てディミトリに物を言うようなことはほぼ無いだろうと思われます。

イングリットは士官学校にいる頃から、同じ幼馴染とはいえど、ディミトリに対する接し方とシルヴァンやフェリクスに対する態度とではきっちりと区別していました。騎士になりたいという希望を持つ彼女は、ディミトリの臣下であるという意識がシルヴァンやフェリクスよりも強いように感じます。

傭兵であるシェズを私兵団の隊長に任命したり平民のアッシュをガスパール城主に据えようとしたりと、ディミトリ自身は紋章や身分制度に対して柔軟な姿勢を見せていますが、それはあくまでも彼が君主だから。臣下からすれば爵位=秩序を自分から乱すことはできませんよね。傭兵として国に縛られず身分制度から外れて生きてきたシェズだからこそ、ディミトリとの間に臣下としてではなく同じ軍で共に戦う仲間として強い絆を築くことが出来たのだろうと思います。

 

一国の王として

青燐の章では、ディミトリが会話もままならないほどに心を病んでしまうこともなく、リュファスやコルネリアと早くに決着を付けることができるため、王国全員でダスカーの悲劇の復讐を果たすべく帝国と対峙していくことになります。ダスカーの悲劇は国王をはじめとする多くの命が失われ、ダスカーの民との禍根を残すことにもなった大きな出来事。決して忘れられることはできません。

それは理解してはいますが、でも復讐という言葉を聞くたびに、ちょっと待てよって引っかかるものを感じてしまうんですよね。

『風花雪月』本編ではディミトリは国を追われ復讐に取り憑かれた王子でしたが、『風花雪月 無双』では違います。彼は国王に即位しているんです。ディミトリにはダスカーの悲劇で救われたその命をかけて、復讐のためではなく、王として国と国民を守るために帝国と戦うときっぱり言って欲しかったし、そうであるべきだったと思うんですよ。けれどフェリクスをはじめ仲間たちは、ディミトリの復讐は我らの復讐とばかりに気持ちを団結させちゃうんですよね。

 

決意を語るディミトリ

決意を語るディミトリ

王家であるブレーダットをはじめ、フタルダリウス、ゴーティエ、ガラテア、カロンといった王家と関係が近く爵位の高い貴族の領地は王国の北方にあり、帝国と接しているところは有りません。王国ルートは内向きな印象ですが、実際に仲の良い臣下が地理的にも近くに固まってるんですよね。

西方貴族は爵位が低めですし、周りをガッチリ北方貴族たちに固められてしまっているので、帝国の侵攻を近くに感じている彼らの意見はディミトリにはちゃんと届かないだろうと思います。もしかすると、ディミトリは帝国が王都を脅かすことには恐れを抱いても、その前に帝国に攻め込まれ被害を受けることになる西方貴族の領地については、そこまで深く考えていないんじゃないかと感じられるのも、このためでしょう。その温度差ってけっこう深刻だと思うんですよ。

ディミトリは思慮深い人です。戦争が終わり平穏が訪れたあとは、紋章の有無や身分に関係なく貴族も平民も共に幸せに暮らせる国を、彼は少しずつ着実に実現させていくのだろうと思います。その時には、シェズの忠告を受け入れたように、フェリクスをはじめとする北方貴族の「おともだち」ではない者たちからの意見も自ら汲み取りに行ってほしいなと思いました。

 

次回は同盟ルートとなる黄燎の章について語っていきたいと思います。

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『ファイアーエムブレム無双 風花雪月』について語りたい【7】赤焔の章に感じること

皆さんは『ファイアーエムブレム無双 風花雪月』(以下『風花雪月 無双』)というゲームをプレイしたことはありますか? 『風花雪月』本編と同様に大聖堂に併設された士官学校に一度は学友として集った生徒たちが、それぞれの信念のもとに国の未来をかけて三つ巴でぶつかり合うことになります。

ということで、今回はこの『風花雪月 無双』アドラステア帝国の皇帝エーデルガルトの物語である赤焔の章について感じたことを、個人的な思い入れを混ぜつつ語りたいと思います。

演説をするエーデルガルト

演説をするエーデルガルト

 

赤焔の章をプレイして

士官学校に入ることとなったシェズが、黒鷲の学級を選ぶと進むこととなる赤焔の章。アドラステア帝国出身の生徒たちの学級のため、シェズも帝国側について戦うことになります。

『風花雪月 無双』はもう一つの物語ということで、「if」の世界を描いていますが、赤焔の章での「if」は、「エーデルガルトが闇に蠢く者と早々に手を切ることができたらどうなったか」ということがメインになっていると思います。

モニカが殺されてしまう前に救出成功し、彼女が自分を誘拐した人物がトマシュであると証言。闇に蠢く者の1人であるソロンはトマシュに成り代わってガルク=マクに侵入していられなくなり、姿をくらまします。その際にソロンが本来の己の姿を晒したことによって、エーデルガルトがアランデル公をに化けているタレスを討つ口実ができたんです。ここで失敗をしないために万全の準備をして時期を待とうとする慎重なヒューベルトと、絶好のタイミングを逃さずに即行動に移す決断力に長けたエーデルガルトの対比にはグッときます。

帝国に戻ったエーデルガルトは、シェズたちとアランデル公に成り代わっていたタレスを追放することに成功。『風花雪月 無双』では我が物顔で帝国を蹂躙戦としていた闇に蠢く者との訣別が『風花雪月』本編よりもずっと早く実現するんですよね。

うっとおしい足枷が外れて、自分の考えをそのまま反映できるようになったエーデルガルト。もうここからは彼女を止める者はいません。反旗を翻したエーギル公を捕縛し宰相の地位を罷免、皇皇位継承を済ませて皇帝となり、ヴァーリ卿を南方教会の試供に任命。エーデルガルトは士官学校には戻らず、ベルグリーズ伯とへヴリング伯と共に2年間をかけて「ある準備」を進めていきます。

ちなみにこの時点でヒューベルトの父親は死んでおり、ヒューベルトが宮内卿に。シェズはエーデルガルトに新しく作る傭兵部隊の指揮を執るよう任命されています。かなりの高待遇です。

そして2年後。セイロス聖教会に対して挙兵を高らかに宣言するエーデルガルト。その演説で彼女は、セイロス教団が偽善者であると断じ、「欺瞞と腐敗に塗れた教団を正す」ために帝国は兵を起こすのだと言い切ります。人々の正義のために教団と戦うという勇ましくも気高い志を持つ新皇帝エーデルガルトの姿に、帝国の人々は心酔するわけです。

この戦いはエーデルガルトが立ち上げた一大プロジェクト。新しいことを成し遂げようとするのって気持ちが昂ぶりますよね。トップが掲げた大きな目標に向かって突き進んでいく帝国軍の雰囲気は『風花雪月』本編よりも良く感じられました。

 

それでもエーデルガルトは挙兵する

『風花雪月 無双』赤焔の章をプレイしていてしみじみ思ったのは、エーデルガルトは出会うのがベレト(ベレス)だろうがシェズだろうが、闇に蠢く者と手を組もうが手を切ろうが、自ら戦争を起こすことに変わりがないんだなということでした。

3国が三つ巴で戦うことにならないとゲームが成り立たないので、仕方ないのはもちろん分かってるんですよ。でもフォドラに戦乱の世をもたらすのはエーデルガルトが自身の意思により行うセイロス教団に対する宣戦であるということに、無力感を抱いてしまったんですよね。

 

帝国は侵略すべきだったのか

『風花雪月 無双』は戦闘がメインの無双ゲームだということもあり、エーデルガルトの過去を掘り下げないまま、開戦の演説となります。

『風花雪月』本編では過去に七貴族の変を起こされて父である皇帝は有力貴族によって傀儡化されてしまったり、自身は体を切り刻まれるようにして無理矢理炎の紋章を埋め込まれたりと、辛酸をなめてきたエーデルガルトの過去が明かされます。皇帝すらも貶め好き勝手しようとする貴族たちの後ろ盾となっているのが、セイロス教団が貴族の証とした紋章。紋章を否定し、それを持っているだけで権力を持つ貴族制度を否定し、紋章をもたらしたセイロス教団を否定し、新しい世界を作らなければ! というエーデルガルトの考えには、同情もできるし共感もします。でも『風花雪月 無双』ではその考えを持つに至る経緯を描くのを端折っちゃったので、セイロス教団相手にエーデルガルトが戦争を始める理由が伝わりにくいんですよね。

主人公のシェズは、傭兵ですし熱心なセイロス教徒でもなさそうですし、当然帝国の内部事情も知りません。なのでセイロス教団と戦うことになるのか、他の同級生たちもそうですが、ちゃんとは理解できていないんです。

しかしエーデルガルトの言葉通り、アランデル公は闇に蠢く者タレスが姿を変えていました。そのことはシェズにエーデルガルトに対する揺るぎない信用を抱かせたはずです。エーデルガルトは短い間ではありましたが士官学校で共に過ごし、アランデル公との対決で共に戦い、怪しい力を持ち正体不明だというのに自分を信頼し重用してくれています。シェズが張り切るのに十分すぎる理由だなと思います。

 

王国と同盟は敵だったのか

でも、エーデルガルトが望む世界を作るために軍事力を使ってフォドラをぶっ壊す必要ってあったのかなというのが、どうしても疑問に残感じてしまいます。なぜなら、何が理由であろうとと戦争という手段を取るのはダメだよねということのほかに、「王国のディミトリも同盟のクロードも、実はセイロス教団や紋章にそこまで重きを置いていないんじゃないの?」ということがあるから。

ディミトリはたしかにセイロス教団を匿いますが、それは帝国に従うか否かの選択で彼が従わないことを決意したから。ディミトリはエーデルガルトの進める改革は倣うべき部分はあるとしてはいますが、もっと段階を踏むべきだと言っています。王国の正統性を担保する存在であり国民の心の拠り所ともなっていることから、セイロス教団を真っ向から否定するつもりはないというくらいのスタンス。紋章についても、それが人の能力の全てを決めるものとは思っていないのは、ドゥドゥーやアッシュへの信頼の置き方やマイクランを将に据えたことでも分かります。

クロードはそもそも異国であるパルミラで生まれ育った人間。セイロス教と出会ったのはフォドラに来てからです。大っぴらには言わないだけで、彼はセイロス教とは相容れない考え方の持ち主なんですよね。無い方がいいとまでは断言しませんが、セイロス教がフォドラを縛りつけて凝り固まった考えにとどまらせているとは思っています。紋章については、クロード自身もリーガンの紋章を持ってはいますが、ことさらに神聖視することはありません。同盟には紋章を持っていなくても勇将と称えられるほどの強さを誇るホルストがいますし、フォドラの人々のようにクロードが紋章の有無を強く意識していることは無いと感じます。

そんなディミトリとクロードがそれぞれの国で元首となっているわけですから、セイロス教団と紋章は残り続けはしても、徐々に時間をかけながら、それらに縛りつけられない世界へと緩やかに変わっていくんじゃないかと思うんですよね。

しかし、たとえエーデルガルトもそう感じていたとしても、彼女はやっぱり挙兵するんですよ。時代が少しずつ変化していくのを、彼女は悠長に待ってなどいられないんです。ずっとヒューベルトと2人で計画を練りに練って準備をして機が熟すのを待ち続けていたんですから、エーデルガルトにとって自分で実行しなければ何も意味がないんです。

腹心であるヒューベルトとのみ共有していた計画であり、エーデルガルトの考えが先鋭的になり過ぎるのを抑える人物がいなかった、そのことはとても残念だなぁと思ってしまいます。

また、開戦の演説でエーデルガルトは、セイロス教団と王国と同盟の関係についてこう言っています。

  • 王国や同盟の成立に暗躍して人々を争わせた(『ファイアーエムブレム無双 風花雪月』)
  • かつて帝国を分裂させて王国を作り、王国を分裂させて同盟を生んだ(『風花雪月』本編)

エーデルガルトは、言葉は違えど教団によって王国と同盟が作られたのだと言っていますよね。セイロス教団から押し付けられたものを全て認めないというのであれば、王国と同盟の存在も認められないことになるわけですよ。ディミトリは王国をクロードは同盟をそれぞれ自分たちの国だと思っていますが、エーデルガルトにとっては王国も同盟も、教団によって無理矢理剥ぎ取られた帝国の一部だという認識なのかもしれません。教団を庇った王国に対してタイマン勝負するのではなく同盟をもあえて巻き込んでいくのは、この理由からなのでしょう。そうなるといよいよもって、エーデルガルトの挙兵は避けられないことだったのだと感じます。

エーデルガルトはセイロス教団を正し、押し付けられた紋章による身分制度を無くし、その人が持つ能力によって正しく評価される人が中心の世界を築くための戦いを始めます。しかし、その戦闘の中で強力な力を発揮するのが紋章による能力であるということは、非常に皮肉だなと感じました。

 

次回は王国ルートとなる青燐の章のストーリーについて語っていきたいと思います。

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